日本ではあまり馴染みのない中東地域。筆者は、中東の島国バーレーン王国で、8歳と3歳の子どもたちを連れて2ヶ月の短期駐在を経験しました。小学2年生の息子は、その間現地のインターナショナルスクールに通学。
日本とは全く異なる教育環境と、学校や先生方の多様性を受け入れる工夫に、親も子も新鮮な驚きと多くの発見がありました。今回の記事では、中東のインターナショナルスクールでの多様性教育についてレポートします!
親子ホームステイ体験記 ~3歳児を連れて北欧フィンランドへ!~
多様性の溢れる環境
バーレーンは、現地人より外国人の割合が高いという多国籍社会です。そんな中でも、インターナショナルスクールは超多国籍!生徒のほとんどは、保護者の仕事で2〜3年の短期でバーレーンに滞在しています。息子の小学校も、全校生徒400名が約50か国から集まっていました。
息子のクラスには、約20名の生徒が在籍していましたが、現地のバーレーン人は3,4名で、残りは一人ずつ異なる国の出身という顔ぶれ。両親が異なる国籍のハーフの生徒も多く在籍していました。ダウン症の生徒も、専門の先生のサポートを受けながら、多くの授業で他の生徒と同じ教室で学んでいました。
日本の小学生が潜入!
息子は普段は日本の公立小学校に通っているため、このように多国籍な環境は全くはじめての経験。バーレーンはイスラム教国でもあり、生徒によっては国籍だけではなく、宗教も違うのです。出身も、肌の色も、宗教も異なる20名のクラスメートたち。先生方もバーレーン人は少なく、息子の担任の先生はアイルランド出身でした。実際に、生徒が5人集まれば、全員別の肌の色や国籍、ということはいたって普通のこと。彼らの唯一の共通点は「英語」という言語だけです。
留学経験のない筆者も、実際に学校に息子が通いはじめるまでは、多国籍かつ、さまざまな多様性に溢れる子どもたちがどのようにお互いを認め合っているのか、全く見当がつきませんでした。異なる文化的背景から差別的な感情も生まれやすいのでは?という心配もありました。悩んだ末、思い切って現地インターナショナル小学校に入ってみたものの、実際の小学校の様子はどうだったのでしょうか?
宗教色の強い中東でならではの宗教教育
日本では「イスラム教」というと、日常的にかなり宗教色の強いイメージがありそうです。現地の公立小学校では、宗教教育が色濃く、小学校から男女別で教育を受けたり、お祈りの時間が設けられているようでした。ただ、比較的裕福な家庭の子どもたちの通うインターナショナルスクールでは、宗教教育はそこまで盛んではありません。
イスラム教の習慣って?学校での取り組みは?
国の教育基準に則り、バーレーン人の生徒は一定時間アラビア語とイスラム教の授業を受講する必要があります。そのため、クラスの4分の1ほどを占めるイスラム圏の生徒は、別の教室に移動して毎日1時間のアラビア語の授業を受講していました。
その間、他の生徒は苦手科目の補習授業など、他科目の勉強をします。毎日のことですので、こうした生徒間の宗教の違いは日常的に存在していました。ただ、「人は人、自分は自分」といった感じで、友達の宗教が違うことに対して指摘をしたり、争ったりすることは全くなく、生徒たちは淡々と自分の宗教を受け入れている印象でした。
イスラム教の文化であるラマダンは、断食をしなければならない期間として有名です。毎日家庭からお弁当を持参してランチタイムを取る生徒たちですが、ラマダン中はイスラム教の生徒は別室で過ごし、他の生徒とランチタイムを一緒に過ごさない工夫がされてていました。
インターナショナルスクールですので、様々な宗教の生徒が在籍しています。学校スタッフの中にもイスラム教の方々が在籍していましたので、多宗教の生徒達が気持ちよく過ごせるよう、配慮されていました。
多様な宗教を信じる人たちが気持ちよく過ごす工夫とは
多種多様な人々が同じ空間にいる中で印象的だったのは、日頃から先生方が率先して個性を「褒める」「認める」姿勢を一貫して貫いていたことです。
「髪型が素敵」「性格が素敵」など、様々な誉め言葉を織り交ぜて、生徒たちの個性を先生方が褒めちぎっていたのです。こうした先生方の姿勢を真似して、生徒は自分の個性に自信を持つと同時に、他者に対しても敬意を払う能力を培ってるようでした。
お互いの文化を知るきっかけになる学校の取り組み
その他にも、生徒たちがお互いの国の文化を学び、認め合えるよう、学校独自の様々なイベントが用意されていました。その一部をご紹介します。
インターナショナルデー
毎年行われる学校独自のイベントで、生徒一人一人が自分の国の民族衣装を着用して登校。クラスごとに校内をパレードし、各国のきらびやかな民族衣装を披露。ランチタイムには自分の国の民族料理を持ちより、様々な国のお菓子などを食べます。
息子は着物を着て登校し、お餅を海苔で巻いた磯辺焼きを持っていきましたが、クラスメートからはポーランドのカップケーキやベネズエラのパンをもらったそうです。
海外文化を積極的に体験する授業
普段の授業でも、異文化理解の機会が数多く取り入れられ、生徒が外国の文化や習慣を身近に感じる工夫がされていました。
例えば、ニュージーランドのラグビー選手が試合前に披露することで有名な、先住民マオリ族の踊り「ハカ」。実際の動画を鑑賞してから、生徒全員で練習、迫力のある声や踊りを実践してみます。こちらは1か月ほどかけて少しずつ練習を重ね、保護者の前で劇として発表する機会を設けていました。
その他にも、音楽の授業では、アフリカの伝統的な太鼓を体験。理科の授業では、火山の勉強にちなんで、火山の多いアイスランドについて学んでいました。
歴史の授業では、ローマの歴史を学ぶと同時に、古代ローマの衣装を着て写真撮影したり、当時の料理を再現して調理してみたりと、生徒が実際に体験する時間もありました。また、授業中に「あなたの国ではどう?」と先生が生徒に質問し、自分の国の様子を説明させる機会も多く設けられていました。
このように、様々な機会を捉えて国際理解の促進に取り組む小学校の姿勢が印象的でした。
多種多様な空間だからこそ、個性をあえて主張させる取り組み
学校独自のイベントも頻繁に開催され、それぞれの生徒の個性をどんどん他の生徒の前で発揮させ、お互いを認め合う機会が設けられていました。
息子が在籍していた2ヶ月の間にも、様々なイベントが行われていました。そのどれもが、あえて個性を前面に押し出すことを生徒に求め、積極的に主張させるものだったのです。学校以外でも、肌の色や衣装の異なる人々を見慣れているという住環境も手伝ってか、生徒たちの多様性を認める意識はかなり高いものでした。
子どもたちがお互いの個性を認められるように、具体的には次のようなプロセスが取られていました。
2. 先生が生徒の容姿や衣装を皆の前で盛大に褒める。
3. 先生のポジティブな雰囲気が生徒達に伝染し、生徒同士も認め合う。
このプロセスは簡単に実践できて素晴らしく、日本の小学校でもぜひ取り入れてほしいなと思いました。子どもたちは先生の姿を見て、自然と自分とは異なる相手へを認め、敬意を表するようになります。個性に対してネガティブな発言が出る雰囲気では全くありません。「人は人、自分は自分。相手も自分もスペシャルでステキ!」というポジティブな空気が学校全体を包んでいたのです。
学校の決めたテーマに沿った服を着て登校する日は、月に2回程度あり、ダウン症の生徒も一緒に参加し、上記のプロセスで生徒同士が褒め、認め合う機会となっていました。
たとえば、次のような学校独自のイベントが開催されました。
自分の出身や趣味、特技などを写真入りで1枚のスライドにまとめ、クラスの前で発表する日。
・メンタルヘルスデー(Mental Health Day)
自分自身を自信を持って表現できる服を自由に選び、好きな服で登校する日。
・クレイジーヘアーデー(Crazy Hair Day)
好きな髪型で登校して良い日。ヘアースプレーで髪を染めたり、カラフルなエクステをつけたり、どんな髪型でも大丈夫!
自己肯定感の高まり
個性をあえて主張し、お互いを認め合う。このプロセスを経て、自然と子どもたちの顔は生き生きと、自分という個性に大きな自信を持つようになります。実際に、イベントを終えて帰ってきたときの息子の顔は回を追うごとに自信に溢れ、先生や友達にたくさん褒めてもらった充実感でいっぱいでした。息子だけではなく、他の子どもたちも同じこと。こうした学校行事や学校側の工夫の積み重ねで、生徒は自己肯定感の高い子どもへと成長していくのです。
他者との違いを受け入れる。多様性理解の環境づくり
いかがでしたでしょうか?多民族、多国籍国家の中東社会での多様性教育。他者との違いを受け入れ、尊敬する教育。自分に自信を持たせ、自己肯定感を高める環境づくり。イスラム圏であっても、長年多国籍国家として外国人を受け入れてきたバーレーンのお国柄は、子ども達の多様性教育にとても良い影響を与えていました。
単一民族国家である日本社会では、あまり想像のつかない環境かもしれません。しかし、子どもたちの多様性理解への環境づくりは、大人の心がけ次第。きっかけは意外と簡単なところにありそうです。