普通に生活していても、つい体調をくずしてしまったり、運悪くケガをしてしまうことってありますよね。世界各国には、それぞれ独自の医療システムがありますが、筆者自身も日本を離れてイギリスに住むようになってから、日本とイギリスのシステムの違いに驚いた経験が多々あります。
今回の英国すくすくレポではイギリスの医療事情について、子育てや家計の視点も踏まえながらお届けします。
医療費は無料?! ありがたいNHSサービス
イギリスの医療サービスには、NHS(ナショナルヘルスサービス)と呼ばれるイギリス政府が運営する公的医療機関と、プライベート(私費)の医療機関があります。
一般的にはNHSの医療サービスを使うことが多く、通常NHSに加盟しているGP(General Practionerと呼ばれるかかりつけ医で、町医者のようなもの)や、General Hospital(大学病院)などでの診察・治療費は無料です。
ただし例外もあり、たとえNHS加盟でも歯科治療は有料、眼科も内容によっては有料、また処方された薬は一律の代金を支払う必要があります。(収入や年齢により例外あり。)
一般的な内科や外科等の診察・治療・入院や手術が無料なのは家計の面でも本当にありがたく、筆者も移住後に婦人科系等の症状で診察や入院が必要だったときにはお世話になりました。
子どもの場合は、歯科も眼科も無料です。最近、長女の視力が下がってしまい眼鏡が必要になったのですが、子どもは眼科の検査から1つ目の眼鏡まで、無料で対応してもらうことができました。
また、家族の緊急時に眼科専門医に診察していただいた際も無料で利用できました。(視力検査や視力矯正は有料ですが、GPを通して眼科専門家に会いに行った場合は無料になるようです。この辺はイギリス人も認識は曖昧のようす。)
そういったメリットはあるものの…残念ながらデメリットもあります。
それは様々な理由が相まって、NHSの医療サービスを受けるまでに時間がかかる場合があるということ。緊急性が無い場合は、診察や治療・手術を受けられるまでに何週間も待たないといけないことも珍しくありません。
以前、予約が取れたのが3週間ほど先で、結局その頃には症状は治まっていたということもありました。知り合いには、なかなか予約が取れないのでプライベート医療に切り替えたという方もいましたが、医療費は二度見してしまうような金額だと言っていました。プライベート病院を利用できるのは、なかなかの経済力がある人に限られるようです。
実際のサービスの質は…
我が家は歯科以外はNHSサービスにお世話になっているので、今回はNHSの医療サービス中心での体験談をお話しますね。
(NHS歯科が満員で登録できないため、仕方なくプライベート歯科を医療しています。一回の治療費がなかなか破壊力のある数字です…。このように人口が比較的多い地域では歯科だけでなくGPでも満員で登録できない・予約がとれないというケースが出ており、近年の問題となっています。)
無料の医療サービスと聞くと、設備や対応、医療の内容が不安になる方もいらっしゃるかもしれませんね。実際にインターネットで調べてみると、プライベート病院の方が日本の医療機関のレベルと書いてあるウェブサイトもあります。
確かに最新医療技術や専門医の診察がすぐに受けられるメリットはプライベート病院の強みです。しかしながら、無料のNHSの医療サービスが悪いかというと、そういうわけではありません。
きちんと必要な処置をしてもらえますし、安心して身を任せられると実体験から言えると感じています。
長女が生まれたときのエピソードなのですが、長女は何らかの原因で出生時すぐに呼吸が止まってしまいました。
そのときのスタッフ皆さんの対応が本当に素晴らしく、また処置もその病院で専門的に行っているもの新しいものを施してくださったおかげで、一命をとりとめさらに後遺症も残らず、おかげさまで現在とても元気に成長しています。
NHSの医療には、親子ともども心から感謝しています。
出生時のエピソードはこちら
生まれてすぐに息が止まったわが子……NICUでの治療へ。出産番外編【英国すくすくレポ】
…とはいえ、改善してほしいと思う点も正直あります。
その一つとして、体の不調の場所(内科なのか、整形外科なのか、婦人科なのか等)によって、直接専門医がいる病院に行ける日本のシステムとは違い、イギリスのNHSではまず最初に必ずGP(町医者のようなかかりつけ医)に会って、そこで専門医へ紹介状を書いてもらう必要があるということです。
実際に、腰痛なのに整形外科に直接行けない&すぐに専門医に会えないというのは、なかなか辛い経験でした…!
二度手間のように感じてしまうこともあるので、この部分は断然日本のシステムの方が効率が良いと心から羨ましく思います。
赤ちゃん、子どもへの対応が早い!
そんなスローペースのNHS医療サービスですが、赤ちゃんや子どもに関しての対応はとても早いです。
次女が生まれて間もなくの体験談なのですが、ある日おむつ替えをしていて気づいた違和感。次女のおへその横に、なんだか茶色っぽいグレー色のシミのようなものが出現していました。
あれ?と思って石鹸で洗ってみたけれど取れず…。もしかして何か体に異変が起こっているのかと思い心配になりました。
ちょうどその日は地域の建物の一室で赤ちゃんの体重を計ることができて、さらに何か気になることがあればミッドワイフ(助産師)さんに相談もできるという日でもありました。(これもNHSサービスの一環)
次女のお腹のシミをミッドワイフさんに見せて事情を説明したところ、ミッドワイフさんは少し触診した後に、「赤ちゃんの事だから心配なので、すぐに専門医に見せましょう。先方に電話で連絡をするので、すぐに病院へ行ってください!」と迅速に対応してくれました。
大人の場合は痛みが無い・緊急性を要しない症状の場合は専門医に会えるまでに時間がかかることが多いと先ほども書きましたが、赤ちゃん・こどもの場合はとても早く対応してくれると聞いた噂は本当でした。
このように、子どもにしっかり迅速に対応してくれるシステムは、子育て中の親にとって安心ですし、ありがたいものですね。
(※ちなみに、このシミですが、結局は大したことありませんでした。ある処置の際の汚れが化学反応で皮膚についてしまっていただけで、専門医の先生がおしりふきでゴシゴシ拭いたら取れました!)
自分の体を守るのは…
今回は、無料で利用できるイギリスのNHS医療サービスについて、体験談を踏まえてお伝えしてみました。
イギリスの日々の生活で実感しているのは、どうしても専門家の力を借りなければいけない場合はしっかりとGPや大学病院でお医者さんに診てもらって治すことが必要ということ。
そして、風邪など休養で通常は回復できるものや、日々の生活習慣である程度予防できるものに関しては、自分自身の自己免疫力が鍵になってくるということです。
風邪で病院にかかるのはイギリスでは非常に稀です。風邪薬も日本の総合感冒薬のようなものは珍しいです。あるとすればパラセタモール(アセトアミノフェン)のタブレットかレムシップと呼ばれるお湯に溶かして飲む粉薬。
インフルエンザやウイルス性胃腸炎であっても基本は「病院へ来ないでください」というスタンスです。(他の人にうつすことを回避するためらしい)
GPからは「とにかく水分をとってひたすら寝て治す!」ことを勧められます。たとえそれが、近年流行しているコロナであっても同じです。
自宅療養中にアドバイスがもらいたいときは、最近ではeコンサルタントというオンラインで質問をしてGPやナースからアドバイスを受けられるサービスや、111という緊急時に医療相談できる電話番号も用意されています。必要な場合は、電話上で処方箋を出してくれることもあります。
日本に住んでいたときは風邪を引くたびに病院へ行って風邪薬をもらっていた筆者ですが、イギリスではそうもいかないので、最初の頃は不安でした。
しかし、在英年数が長くなるにつれて慣れも出てきたのか(はたまた諦めか?)、自分の体は自分で治す!を基本として生活するので、緊張感と生活習慣の改善のおかげで、逆に風邪を引きにくくなりました。
メリットもデメリットもあるイギリスの医療システム「NHS」ですが、今までたくさんお世話になってきたので、個人的には感謝の気持ちでいっぱいです。