フランスでは高校卒業前に、「バカロレア」という卒業試験を受けます。毎年バカロレアの時期になると、テレビでその年の問題分析から結果発表まで、受験者たちの悲喜こもごもとともに伝えられます。日本のセンター試験のようですね。でも、その試験内容、実は日本の試験と全く違うのです。そんなフランスのバカロレアについて、現地からお伝えします。
フランスのバカロレアとは?
このシステムはなんと、1808年にナポレオン・ボナパルトによって導入されたもので、通称「Bac(バック)」と呼ばれており、2016年には87,9%の学生が合格しています。
バカロレアは、普通バカロレアと技術バカロレア、職業バカロレアに分かれています。一般的な普通バカロレアは、さらに科学系(通称 Bac S)、経済社会系(通称 Bac ES)、人文系(通称 Bac L)に分かれており、それぞれ試験内容や科目が異なります。ここでの選択が、その後の大学選びの基本になります。現状としては、優秀な学生はたとえ人文系に進みたくても、科学系を選ぶようです。
7日に渡るテスト期間
それぞれの科目の試験時間は3時間から4時間です。
科学系、経済・社会系、人文系に共通して、まず第1日目は「哲学」。
第2日目は「歴史・地理」、第3日目は「第1外国語」。
第4日以降は、選択系統によって日程が異なりますが、共通科目としては「数学」と「第2外国語」があります。
高校卒業時にすでに2つの外国語の試験があるのと、哲学が必須科目だというのが、すごいですね!
話題になるのは第1日目の「哲学」!
毎年、今年のお題は何だ、と話題になります。
ちなみに2016年の試験内容は、以下の通りです。
それぞれの系統ごとに、3つの題目がありますが、この中から1つ選び、ひたすら4時間論証しなくてはいけません。
科学系
労働の減少は、よりよく生きることを意味するか。
Faut-il démontrer pour savoir?
知のために論証は必要か。
Explication de texte : MACHIAVEL, Le Prince (1532).
以下のマキャベリ『君主論 (1532)』の抜粋を説明せよ。(問題文略)
経済・社会系
人は常に自分が欲しているものを分かっているか。
Pourquoi avons-nous intérêt à étudier l’histoire?
人はなぜ歴史を学習する必要があるのか。
Explication de texte : René DESCARTES, Principes de la philosophie (1644)
以下のデカルト『哲学原理(1644)』の抜粋を説明せよ。(問題文略)
人文系
道徳的信条は経験に基づくのか。
Le désir est-il par nature illimité ?
欲望は本来際限がないのか。
Explication de texte : Hannah ARENDT, Vérité et politique (1964).
以下のハンナ・アレント「真実と政治 (1964)」の抜粋を説明せよ。(問題文略)
記述が多いバカロレア試験
どの科目に関しても、記述式のものばかりです。
例えば歴史・地理の問題は、「第二次世界大戦以降の、中東と近東における紛争について説明せよ」というもので、これについて年号なども入れながら、論文形式で解答しなければならないのです。
バカロレアに合格すれば、どの大学にも入れる?!
例えば日本で有名なソルボンヌ大学(正式にはパリ第4大学)も、実は誰でも入ることができるんです。フランスでは大学に入ることよりも、修了することが重要視されています。
またフランスのエリートは、バカロレアの後大学には進まず、2年間の準備課程を経て、大難関グランゼコールの入試をします。
考える力を重視するフランス
高校までの教育で子どもたちに求めているものが、日本とは違うような気がしますよね。
フランス人と話していると、ディベート力に圧倒されることがありますが、これは小さいときから養われてきた論理性のおかげなんです。
お子さまにも普段から、自分の意見を論理的に言う機会を与えることができたらいいですね。