2017年03月09日 公開

学歴ならぬ“塾歴”社会!? 二大エリート塾の秘密!「ルポ 塾歴社会」

進学校の中学受験塾として圧倒的なシェアを誇る「サピックス小学部」、東大理Ⅲ合格者を多く排出する「鉄緑会」。受験界では有名なこのふたつの塾について取材された新書、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』をご紹介します。

進学校の中学受験塾として圧倒的なシェアを誇る「サピックス小学部」、東大理Ⅲ合格者を多く排出する「鉄緑会」。受験界では有名なこのふたつの塾について取材された新書、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』をご紹介します。

日本のエリートは「塾」が育てている!?

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タイトル:ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体
著者:おおたとしまさ
出版社:幻冬舎

 毎年、東京大学合格者数ランキングの上位に名を連ねる開成、筑波大学附属駒場、桜蔭、麻布、灘などといった超有名進学校。そのほとんどは、私立もしくは国立の中高一貫校です。これらのトップ校に入るための中学受験塾として圧倒的なシェアを誇るのが「サピックス小学部」。そしてこのトップ校に通う生徒たちの多くが在籍しているのが、東大受験指導専門塾「鉄緑会」。この事実から見えてくる、サピックス小学部→鉄緑会→東大へというひとつの王道――。

 日本のエリートは塾なしには育たないのが現実で、「この2つの塾が日本の“頭脳”を育てていると言っても過言ではない」と著者・おおたとしまさ氏はいいます。本書は、出身者の体験談や元講師の証言を元に、サピックスと鉄緑会の秘密に迫り、こうした“塾歴社会”がもたらす光と闇を詳らかにするルポタージュです。

サピックスとは? 鉄緑会とは?

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Wiiii/CC BY-SA 3.0
 サピックスは首都圏では比較的広く知られている塾ですので、小学生のお子さまがいらっしゃる方なら、中学受験を考えていなくてもご存知かもしれません。サピックスは、1980年代に中学受験の塾として有名であったTAPの講師陣の一部が新たに立ち上げ、現在は大手予備校・代々木ゼミナールの傘下になっている塾です。
 本書に記載の2015年度実績データでは、開成合格者の8割以上がサピックス出身者だそう。最難関中学への合格者数は中学受験塾業界の老舗・四谷大塚や日能研を引き離し突出していて、難関校に強い塾と言われています。

 鉄緑会は、東大医学部や法学部の学生や卒業生が集まり1983年に創立、東大や京大、および難関大学医学部をターゲットにしたエリート育成塾。鉄緑会には指定校制度があり、この指定校に合格した生徒は中1の春に入塾する場合にのみ、入会選抜テストを免除されます。もちろん、指定校には最難関校の名が連なります。
 2015年度は東大医学部合格者の6割以上が鉄緑会出身という実績。日本屈指の進学校に通う秀才を集め、さらに鍛え、確実に最難関大学に合格させることを目指す塾です。

超難関校合格者数など実績データを掲載

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Charly W. Karl/CC BY-ND 2.0
 さて本書は、「サピックス〜鉄緑会という王道」、「サピックス『ひとり勝ち』の理由」、「鉄緑会という秘密結社」、「塾歴社会の光と闇」の4章から構成されています。

 第一章では、中学受験塾大手6社の学力帯別合格者比率、開成や筑波大付属駒場など東大合格者ランキングトップ校へのサピックスからの合格者数、難関校の鉄緑会在籍者数、鉄緑会の東大合格実績などの具体的なデータを掲載。サピックスで学んだ生徒たちが中学受験を突破した後、鉄緑会へ入り、東大への道を切り開くという“王道”について、掘り下げていきます。

 第二章、第三章では、元講師、教育ジャーナリスト、出身者の体験談などを交えながら、サピックス、鉄緑会の授業内容や指導スタンスなどを紹介。ふたつの塾が“すごい”理由を解き明かします。スパルタなだけだと思われがちですが、学校とは違う塾特有の“教育力”が見えてくるはずです。

塾は教育に、多様性をもたらすか

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 そして最終章では、日本の教育や学歴社会の問題に触れ、日本の教育システムにおける「塾」の存在について考察されていきます。
公教育が「与えられた教育」であるとするならば、民間教育は「自ら求める教育」と言える。その2つがあることで、日本の教育はバランスを保ち、かつ、柔軟に進化し続けることができた。これは世界でもまれに見るハイブリッドな教育システムなのである。
via 本書P145より
 塾はネガティブな面がクローズアップされやすいですが、塾によって教育の多様性が増していると著者は言います。しかし一方、多様性をもたらすはずの塾が、学力トップ層においては多様性を欠く状態になりつつあると問題提起される場面も。塾歴社会とは、いまの日本の受験システムが「制度疲労」を迎えている証であるとし、現在議論されている大学入試改革についても触れられています。

豊富な体験談から子どもの進学、受験を考える

 本書は、サピックスや鉄緑会、そこに通うトップクラスの子どもたち、エリート教育の現場に焦点が当てられた書籍です。「縁遠い話」だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、本書のいちばんの魅力は収録されている体験談の豊富さにあるといえます。塾出身者やその親、元講師やジャーナリストなど、それぞれに異なる立場の関係者たちが、塾のよい点だけではなく弊害となったことについても語ってくれます。
 塾在籍中の勉強の様子や社会人になってからの話、親がどこまで子どもの勉強に関わっていくか、どうサポートするか……。体験談の中から、子どもの勉強や子育ての参考になることも多くあるでしょう。巻末に収録されていた「鉄緑会出身東大医学部 現役生・覆面座談会」も大変興味深い内容です。

 ニュートラルな視点で取材、執筆されているため、非常に読みやすいのも特徴的な一冊。子どもの進学や受験、いまの日本の教育、受験システムについて考える際、手助けになるのではないでしょうか。

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この記事のライター