連載4回目は、イギリスの小学校の運動会事情についてご紹介します。5~6月の初夏が運動会シーズン。娘がはじめて参加した小学校運動会の体験談も盛り込みながら、イギリスの運動会レポートをお届けします。
イギリスで「運動会」は、なんて呼ぶ?
イギリスでは、運動会のことを「スポーツ・デー”sports day”」と呼びます。
“day”とはいうものの、一日がかりの行事ではない学校が多いです。娘の通う学校は、2学年合同で午後に約2時間程度。他の学校も同じように数時間、または午前か午後のどちらか(低学年・高学年で分かれる)で開催というところが多く、一日中という学校は稀です。
イギリスの学校の校庭は、ほとんどの場合が芝生。芝生の上に白いラインをひいて、競技場の準備をします。
また、上のイラストのような「マーキー”Marquee”」と呼ばれる、屋根だけの大型テントを並べて、生徒の待機場所にしています。
とはいえ、イギリスの運動会には、日本のようなプログラムではなく、校庭のあちらこちらに種目が分かれて用意されており、生徒たちがグループごとに各種目をまわって行うシステムです。そのため、開会と閉会のスピーチのときくらいしか、生徒はマーキーの中にいません。
ちなみに、入場行進や開会式・閉会式、選手宣誓やラジオ体操などはなく、本当にアッサリはじまってアッサリ終わるのも、ゆるいイギリスならではです。
どんな種目や競技があるの?
運動会の種目は、短距離走やリレーなど日本でも一般的なものはもちろん、日本ではあまり馴染みがないけれど、イギリス人が「運動会といえばコレ!」と共通して連想するサックレースやエッグスプーンレースのような競技まで、さまざまです。
サックレースは、上のイラストのように、大きな袋(現在は取っ手つきの丈夫でカラフルな袋)に足を入れて、ぴょんぴょんジャンプしながらゴールまでを競うというものです。この競技は、もともとジャガイモなどを入れる麻袋=サックを使って行われていたことから、サックレースと呼ばれます。今でも伝統にのっとって、本物の麻袋を使う学校もありますよ!
エッグスプーンレースも運動会の定番。スプーンにゆでたまご(または卵型のおもちゃ)を乗せて、スプーンから落ちないようになるべく急ぎながらゴールまで急ぐ競技です。
エッグスプーンレースもサックレースも人気があり、レース中は大きな歓声があがります。
道具を使った種目・競技が意外と多い!
イギリスの運動会では、道具を使った種目も多く見られます。
・ハシゴを地面に置き、ハシゴを踏まないように穴の間に着地しながら走る障害物競争
・コーンと呼ばれるカップとお手玉を重ねて乗せて、バランスを取りながら走る競技
・フラフープに2人組になって入り、折り返し地点まで走って戻ってくるレース(二人三脚の雰囲気に似ている)
・砲丸投げの代わりに”Whistling Rocket(またはAero Howler)”と呼ばれる、ロケット型のアイテムを投げて、飛距離を競うもの
……などなど。
すべての種目は、制限時間が来るまで何度も繰り返し行い、時間になり、笛が鳴ったら、次の競技コーナーへグループごとで移動するシステムです。
娘の小学校の場合、各クラスのアシスタントの先生や他学年のボランティアの生徒が、記録用シートや生徒の水筒をバスケットに入れて持ち歩き、グループでの移動を先導。競技中は、スムーズに進行するようにサポートしてくれました。
日本の運動会との違いとは?
日本の運動会とイギリスの運動会は、異なる点がたくさんあります。日本に比べてイギリスは、玉入れや綱引きなどの団体競技が少なく、ほとんどが個人競技・ペアで行うものでした。
また、赤組白組に分かれて競うこともありません。生徒は入学時にランダムに決められた「House」と呼ばれる、組と色が与えられます。娘の通う学校では、4色(赤・ルビー、青・サファイア、黄・トパーズ、緑・エメラルド)に分けられます。体操服は、自分のHouseの色のTシャツを着用しなければなりません(ちなみにゼッケンもありません!)。
学年が変わっても、この色は変わりません。イメージとしては、ハリーポッターの学校でグリフィンドールやスリザリンなど、4つの寮に入学後振り分けられる感覚に似ています。
競技がはじまるとき、合図の鉄砲もなく、運動会ならではのBGMもありません。なんとも静か……かと思いきや、保護者の応援、子どもたちの歓声などで、運動場は結構賑やかなんですよ。
応援席というものもなく、各競技に生徒が移動すれば、その保護者も一緒に移動して、すぐ横で観戦・応援するので、一体感が感じられて、これはこれで良いものだと思いました。
また、頑張る子どもの写真をすぐ近くで写すことができ、とっておきの一枚が撮れるのも、パパママにはうれしい点ですね!
さらに、運動会終了後には紅茶タイム(リフレッシュメントと呼ばれることも)がある学校もあるようです。
先述したマーキー(大型テント)の下に長テーブルを置き、そこに紅茶・コーヒー・ジュース、ケーキなどを並べて屋台のようにします。PTA役員によって運営されていることが多く、売り上げは子どもたちの教育や備品などの資金となります。
実際に紅茶タイムがある運動会に参加したことがないのですが、そういった話を聞くことがあるので、学校やPTAの方針によるところも大きいようです。
スポーツデーは「運動することを楽しむこと」が目的!
イギリスの運動会であるスポーツデーをご紹介しましたが、いかがでしたか。
短時間なので、子どもと一緒にお弁当を食べたりすることもなく、日本ほど一大イベント!という感覚ではないので、正直、日本生まれ日本育ちの筆者としては物足りないような気持ちもありました……。
ですが、イギリスの運動会は気楽で和やか。終始みんなリラックスして「運動を楽しむ」ことができ、応援に来た保護者が、子どもたちの頑張る姿を近くで観戦できるというメリットもあります。
赤ちゃんをバギーに乗せてゆったりと見学することが可能なので、子育て中のパパママにも優しい雰囲気。持参のキャンピングチェアーに座って観戦中の保護者の姿も見かけました。
はじめて参加した、イギリスの運動会はなかなかアットホームで、イギリスならではの良いところが発見できた日となりました。
取材・文・イラスト:いしこがわ理恵
在英13年目の2時の母、ライター兼イラストレーター。武蔵野美大卒。現在は英国で日本語教育・日本語子ども会活動にも従事。海外生活・育児経験を活かした記事を執筆中。
※いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの過去記事はこちら↓↓↓