時間割もクラス割も無い!? 子どものペースを大事に、自主性を育んでくれる、イギリスの「Pre-school プリスクール(幼稚園)」事情をお届けします。毎月イギリスの教育事情をイラストと共にご紹介している【イギリス学校便り】の第11回目です。
何をして遊びたいか、自分で決める
イギリスでは、小学校の前に通う幼稚園のことを「プリスクール(プレスクール)」と呼びます。
プリスクールの登園・お迎えの時間は、いくつかの時間枠のなかから、各家庭に合った枠を選ぶことができます。ですので、朝の登園時間が数パターンあったり、昼から登園を選択する子どももいます。
プリスクールの建物内に入ると、入口担当の先生に挨拶をして、名簿にチェックを入れてもらい、各自で荷物(お弁当やコート)を所定の場所に置きます。
そして、いくつか用意されている遊びのコーナーから、子ども自身で遊びたいものを選びます。ペイント、パズル、車と道路、ブロック、絵本、外遊びなど、登園した瞬間から楽しそうな雰囲気が広がっています。
時間割に合わせて、みんなと一緒に同じことをするのではなく、興味があることを自分で選んでトライしてみる形です。とことん取り組んでも良いし、たくさんのことを少しずつトライしても良いというように、子どもの主体性が伸びる方針だと感じました。
登園直後は、「パパママ、見て!一緒に遊ぼう」と子どもが誘ってくることもしばしば。そんなときでも、先生たちは和やかに見守っていてくださり、自由に過ごさせてくれます。子どもが自らパパママと離れて「今日もプリスクールで頑張ろう!」という気持ちになるよう、子どもにペースを合わせてくれるのがありがたいです。
縦割り保育に近いので、のびのび交流
プリスクールには2~4歳までの子どもたちが通います。クラス分け(〇〇組)のようなものはなく、好きな遊びをその場所(遊びのコーナー)に行って取り組むので、常に異年齢の子どもたちとも遊ぶことになります。
自分よりちょっと大きい子や小さい子と、順番を守ったり、おもちゃをシェアしたり。喧嘩や仲直りを繰り返しながら、社会性を身につけていきます。
各コーナーにそれぞれ先生やスタッフがいて、安全を確認したり、子どもたちと一緒に遊びます。つまり、1クラスに子ども〇人、担任の先生が1人というシステムではなく、例えていうならば、大きな広い部屋に、出店みたいにいろんな遊びのコーナーがあって、先生がそれぞれそのコーナーを担当しているという感じです(泣いている子や困っている子などをケアするアシスタントの先生も巡回しています)。
筆者の次女は、女の子とも男の子ともたくさん遊ぶタイプで、お人形さん遊びやお花摘みは〇〇ちゃんと、探検ごっこやブロック遊びは〇〇くんと……というふうに、遊びによって友だちが複数いるようでした。また、年齢もそれぞれバラバラでしたが、子どもなりにいろいろと学んでいる様子でした。
安心・信頼できる、大切な存在のキーワーカー
クラスがないので、クラス担任というのも存在しません。その代わり、各児童に1人の「Key woker(キーワーカー)」という担当の先生がつきます。
とはいっても、子どもがキーワーカーと常に行動するわけではありません。子どもに困ったことがあった場合や、保護者の視点から気にかけていてほしいこと、たとえば、トイレトレーニング中、体調がイマイチなどの事情があれば、その都度相談して対応してもらいます。
例えば、登園したときに、パパママと離れるのがイヤだと言って泣いてしまったときに、ぎゅっと抱きしめて落ち着かせてくれる、いつも子どもの園での様子を見守ってくれる、そんな温かい存在がキーワーカーなのです。
キーワーカーの存在は大きく、プリスクールを卒園するときも、娘二人はそれぞれのキーワーカーが恋しいと、卒園後数カ月はよく思い出していたようでした(姉妹とも、違う2つのプリスクールに通っていましたが、どちらのキーワーカーもステキな方々でした)。
ちなみに、キーワーカーを呼ぶときは、〇〇先生に相当するMiss.苗字や、Mrs.苗字ではなく、ファーストネーム(下の名前)で呼びます。これもまた、小さい子どもにとっては、親しみやすい理由の一つなのかもしれません。
先生方がとてもフレンドリー!親も救われます!
親にとっては、キーワーカーをはじめ、幼稚園の先生やスタッフが、本当にフレンドリーで話しやすいのも、イギリスのプリスクールの魅力です。週末のできごと、家族のことを話してくれたり聞いてくれたりと、登園が親のちょっとした楽しみになっていたほど(笑)。
育児の悩み(イヤイヤ期、トイレトレーニング)なども、気軽に相談しやすい雰囲気がそこにありました。多くの先生やスタッフが、育児経験のあるお母さんということもあり、経験に基づいたアドバイスが心強かったです。
長い子は2年、短い子は1年通うプリスクール
何歳から入園するかにもよりますが、長くて約2年超、短くて約1年間ほどプリスクールに通園します。
小学校がはじまる4歳の9月までという、幼くも多くのことをスポンジのように吸収する時期を過ごすので、毎日のプリスクールでの時間はとても大切です。
実は筆者は、子どもの入園前まで、イギリスのプリスクールについて、アクティビティの内容もスタッフの対応などもあまり知らず、不安が大きかったのです。結果として入園から卒園までの時間は、子どもにとっても筆者にとっても、素晴らしく貴重な経験ばかりでした。
今では、イギリスのプリスクールは、異年齢の子どもたちと関わりながら社会性を身につけ、自分で選択する主体性を育み、キーワーカーを通して信頼関係を学ぶという、充実した教育環境の場だと確信しています。
取材・文・イラスト:いしこがわ理恵
在英13年目の2時の母、ライター兼イラストレーター。武蔵野美大卒。現在は英国で日本語教育・日本語子ども会活動にも従事。海外生活・育児経験を活かした記事を執筆中。
※いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの過去記事はこちら↓↓↓