実は、子どもは「親が子に言い聞かせる言葉」以上に、「パパとママの会話」から大きな影響を受けています。発売直後から話題を呼びたちまち重版となった本『賢い子を育てる夫婦の会話』の著者である天野ひかり先生にお話を伺いました。
夫婦の会話が“賢い子”を育てる!【全3回連載】
だからこそ、親から子への言葉がけが大切であるという主張が注目を集めていますが、実は「親が子に言い聞かせる言葉」以上に影響を受けているのは「パパとママの会話」です。
子どもと話すときは言葉を選んで気をつけて話しているけど、夫婦の会話は盲点だった!という方へ、子どもにいい影響を与える「夫婦の会話」について、3回にわたってご紹介します。
【連載】夫婦の会話が“賢い子”を育てる!
Vol.1 賢い子を育てる「夫婦の会話」4つのルール ←今回はここ
Vol.2 「夫婦の会話」が、子どもに必要な5つの力を育てる
Vol.3 【シーン別】賢い子を育てる夫婦の会話のコツ
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間接的な会話の方が、より心に響く
ひとつは、目の前の相手から直接かけられる言葉よりも、誰かが間接的に自分のことについて話している言葉の方が、心に響くからです。
直接的な言葉には時として「お世辞」や「社交辞令」が含まれることを私たちは感じ取ってしまうのに対し、間接的な言葉は真実味を帯びて感じられるのです。
例えばあなたが上司から「君の出した例の企画書、とても素晴らしかったよ」と直接褒められるのも嬉しいですが、第三者から「ねぇ、君の出した企画書がすごくいいと部長が絶賛していたよ!」と間接的に聞く方が、何倍も嬉しく感じませんか?
いいことも悪いことも、間接的に聞く方がより心に響くのです。
そしてもうひとつ、間接的な会話によって、思考力が鍛えられる効果もあります。
一方的に言い聞かされた言葉よりも、第三者同士の会話を聞くことで、「これってどういうことなんだろう」と自分で考えるようになるのです。
それでは、子どもにいい影響を与える会話とはどういうものなのか、4つのルールをご紹介します。
(1)「相手を非難する」のではなく「自分の要望を伝える」
夫や妻に対しての要望は、裏返せば「それができていないこと」に対する不満にも取られます。相手はそれを「自分を非難している」と感じ取って、ケンカへと発展してしまうのです。
もちろん、夫婦ですから要望をわかってもらうことは大切です。それをガマンする必要はありません。
では、どのように伝えるといいのでしょうか。
次の3つのステップを意識してみてください。
STEP1. 「相手を認める」
→(例)毎日遅くまで仕事お疲れさま。この時期は毎年忙しくて大変だよね。
STEP2.「自分の望みを伝える」
→(例)娘ちゃんも2歳になっておしゃべりもたくさんできるようになってきて、最近ますますかわいさが増したよね。パパにもそれを感じてもらいたいって思っててね。
だから、仕事で疲れてるとは思うけど、できたらお休みの日でも10時くらいには起きて、娘ちゃんと一緒に遊んでもらいたいなと思ってるんだ。
STEP3.「世の中や家族のルールを伝える」
→(例)この子が生まれたとき、「2人で力合わせて子育てしようね」って話したの覚えてる?幼い頃からパパと仲良い関係を築くことって、女の子の成長にすごく大切なんだって。
いかがでしょうか。
このSTEPを飛ばして、要望だけを伝えてしまってはいませんか?
それだと、相手は「非難されている」と感じてしまいがちです。相手のできていないことに注目するのではなく自分が望むことに注目して伝えるようにしてみましょう。
その際、相手の状況を認める言葉をかけることを忘れてはいけません。
(2)「言わなくてもわかる」は禁物。相手に伝えることを意識
どんなに親しい関係であろうとも、相手の全てを何も言わなくても理解できる、ということはありません。
「大変だ」という状況があるなら、それを客観的に、相手にわかるように伝えることが大切です。
「言わなくてもわかるはず」は禁物です。
(3)子どもの前でケンカしたら、仲直りまで子どもに見せよう
言葉や力で傷つけ合うケンカはするべきではありませんが、建設的な夫婦ゲンカなら、時にはアリです。
このときに大切なのは、ケンカをしたあと。
夫婦ゲンカをした結果、何がわかり、今後どうするかまでをきちんと言葉で伝え合って、仲直りしましょう。
ママ「なんで◯◯してくれないの」
パパ「それは無理だって言ってるだろ」
ママ「いつも全然わかってくれないんだから!」
ではなく、
ママ「じゃあ◯◯するのはどうかな」
パパ「なるほど、それならできるかも」
ママ「感情的になってごめんね」
パパ「わかり合えてよかった。言ってくれてありがとう」
というところまで見せられるといいですね。
ケンカを見たことがないと、子どもは正しいケンカのしかたがわからないまま成長します。すると、大きくなって自分の意見を通そうするとき、感情的に相手を非難したり意見を押し付ける一方的な行いをするようになってしまいます。
パパとママが、時には感情的に言い合ったとしても、相手の言い分を受け入れて歩み寄って答えを出そうと努力する姿を見せることで、子どもも自分の意見の伝え方を学んでいくのです。
(4)「目的」と「話題」を分けて考えよう
会話には、「目的がある会話」もあれば、「目的のない会話」もあります。
例えば、子どもが習い事を嫌がる、辞めた方がいいのかな、と迷っていて、夫婦で話し合いたいと思っているとします。
その際、こんな会話になっていませんか?
パパ「何かあったの?」
ママ「わからないんだけど、入る前に大泣きするの。手をつけられないくらい泣いちゃって、先生も困っちゃうし、私はイライラしちゃうし……」
パパ「でも俺も子どもの頃スイミング嫌いだったなぁ」
ママ「私も嫌だったけどがんばったのよ」
パパ「人によって得意不得意があるからねぇ」
ママ「でも泳げるようになってほしいじゃない。○○ちゃんたらスクール中に響き渡るくらい大声で泣くから私もう恥ずかしくって……」
パパ「へえ」
ママ「ちゃんと聞いてる? 本当に困ってるんだけど」
パパ「じゃあ辞めたら?」
ママ「そのために今話してるんじゃない!」
これは、「スイミングを嫌がっている子どもについて話したいのか」「辞めるか続けるかについて話し合いたいのか」、話題と目的が混ざってわからなくなっている例です。
目的のある会話をするためには、まず自分がどうしたいのかを自問するところからはじまります。
今回の夫婦の会話の例でいえば、
・大変なことをパパにもわかってほしいだけなのか
・ママがストレスになるからもう辞めさせたいと思っているのか
・子どもが泳ぐことを嫌いにさせたくないから、スイミングスクールはいったん休会して、しばらくは家族でプールを楽しむようにパパにも協力してもらいたいのか
・子どもがスイミングを嫌がるようになった原因を探して解決し、また楽しく通えるようにしたいのか
などなど。
自分自身がどうしたいのか目的をはっきりさせて、そのためにどうしたらいいのかを夫婦で話し合えるといいですね。
このケースの場合なら、
「じゃあ一旦辞めるけど、あなたが休みの日にはプール連れて行って、泳ぐことの楽しさを教えてほしいの。パパは泳ぐの得意だし」
とか
「スイミングを嫌がる原因をパパが、それとなく聞いてみてくれる?。私と違う視点でお話ししたら、何かわかるかもしれないから。パパそういうの上手だから」
などでしょうか。
このときも、自分の要望だけを伝えるだけではなく、相手を認めることや自分がどうしたいかを丁寧に言葉にすることを心掛けるといいですね。
子どもが成長するにつれ効果があらわれる「夫婦の会話」
しかし、子どもが成長するにつれ、「夫婦でどのような会話をしたか」が効果を発揮してくるでしょう。
次回の記事では、「夫婦の会話」によって子どもが磨いていく5つの力について、詳しく解説いたします。
天野ひかり先生プロフィール
上智大学文学部卒業。テレビ愛知アナウンサー(1989〜1995)。現在はフリーアナウンサーとして活躍中。
フリー転向後はNHKの番組を中心に出演し、2008年3月まで教育テレビの番組『すくすく子育て』でキャスターを務める。自身の結婚、出産、育児と仕事の両立を経験したことで、子育ての重要性を認識。「NPO法人親子コミュニケーションラボ」を立ち上げる。子どもの自己肯定感を育むための親子のコミュニケーション力をのばす講座や講演を全国の自治体や幼稚園、学校、企業などで開き、今までの受講者は5万人以上。多くの父母から支持され「育児が180度変わった! 」など感動の声が寄せられている。著書は他に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)、『天野ひかりのハッピーのびのび子育て』(辰巳出版)がある。
賢い子を育てる夫婦の会話 | 天野ひかり, 汐見稔幸
怒らないと勉強しない、友だちや学校の話をしなくなった、「自分なんて」と自分を責める、きょうだいゲンカが多い……。この原因は「夫婦の会話」にありました。
伝え方のプロで自らも子をもつ母である著者が、子どものふるまいが心配な人、 パートナーとの子育てに悩みがちな人に、子どもを賢く育て、夫婦関係もラクになる会話のコツを紹介します。