2020年01月26日 公開

ICT教育とは|文部科学省が推進するICT教育のメリット・デメリット

電子黒板・タブレット端末などを授業に用いるICT教育。文部科学省はICT教育を「学習意欲・論理的思考力を高め、国際競争力のある人材を育てる教育法」として推進しています。ICT教育の概要・メリットとデメリット・今後の課題についてまとめました。

電子黒板・タブレット端末などを授業に用いるICT教育。文部科学省はICT教育を「学習意欲・論理的思考力を高め、国際競争力のある人材を育てる教育法」として推進しています。ICT教育の概要・メリットとデメリット・今後の課題についてまとめました。

ICT教育とは

先生 教員 工教育 - Pixabayの無料写真 (142321)

ICT教育は情報通信技術を活用した教育手法。「information and communication technology=情報通信技術」を意味します。情報通信技術とは、コンピュータとネットワーク(通信経路・ケーブルでコンピュータ同士を接続して相互通信すること)に関するすべての技術・設備・サービスなどのことです。

ICT教育ではパソコン・タブレット端末・電子黒板・DVD教材などを使って授業を行います。ICT教育の具体例としては、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • デジタルコンテンツ(画像・動画・文章・音楽などをデジタルデータ化したもの。CD・DVD・電子書籍など)を使った視覚・聴覚に訴える学習。
  • タブレットやパソコンをインターネットに接続して「学習に必要な資料を検索」「教師と生徒、生徒同士が授業に必要な情報の共有」「個別の添削指導」などを行い、 子どもの学習意欲を育てる。

文部科学省が、ICT教育を推進する目的とは?

文部科学省が教育ICT化を推進する理由は、大きく分けて2つあります(教育ICTはすべての教育施設で使われる情報通信技術使った取り組み、または情報通信技術全般を指します)。

■確かな学力の育成
ICTを使うことで学習の興味・関心を高めます。思い立ったらすぐ調べられたり、知りたい情報の画像・動画で得られるので子どもの学びたい気持ちを伸ばし、持続させることにつながるでしょう。「教師に教えてもらう=受動的な学び」ではなく、子どもたちが「主体的に学べる」ようになります。

また、資料・各自の意見・作品を教師や児童生徒同士で共有できるので、子どもたち自身が相互に教え合い学び合う「協働的な学び」が実現するのもメリットです。

■子どもの能力や特性に応じた「個別学習」を行うため
「先生が黒板に書きながら説明して、子どもたちはそれをノートに写す」「発表が得意な子がいつも発言して、苦手な子は先生に指されれば発表する」など、かつての授業で生徒の学ぶ姿勢は受動的でした。平均より学習能力の高い子・低い子は主体的に学ぶ機会が少なかったかもしれません。

手を挙げて皆の前で発表するのが得意、発表は苦手だが文章に表すことが得意、いろいろなアイディアがひらめくけれどじっくり考えることは苦手……。児童生徒にはさまざまな個性・能力があるものです。パソコン・タブレットなどを使えば、人前で発表できない子も自分の意見・疑問を発信できます。

先生が各生徒のパソコン・タブレットを瞬時にチェックできるので、誤り、誤解をその都度指摘することも可能。特別支援学級などの児童生徒にICT教育を行えば、障害の状態や特性等に応じた指導がしやすくなります。学習意欲を高め、効率的な自立活動支援につながるでしょう。

授業でのITツールの活用とは?

ICT教育で使われるITツール例をご紹介します。
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・電子黒板
通常の黒板のように使うことはもちろん、プロジェクターを使ってパソコンの画面をそのまま電子黒板に映すことができます。電子黒板上でパソコンの操作が可能なので、生徒の疑問に対して教師作成の資料・WEBコンテンツを使った「具体的な回答」が瞬時にできるのが魅力。書いたものの保存ができ、授業の振り返りはもちろん、次年度以降の指導に活用すれば板書時間の短縮にもなります。

・パソコン・タブレット端末を使った双方向型授業
教師と児童生徒がパソコン・タブレット端末を使って「教材・資料の共有」「質問・回答・添削」「教師と生徒・生徒間での意見交換」など行います。教師から生徒への一方的な語りかけではなく、生徒からも疑問・提案が活発に出る環境を作れるでしょう。個々の生徒のタブレットを教師が一括管理できるので、つまずいている、集中できていない生徒にいち早く気づくことができます。

・プログラミング学習ソフトやアプリを使って「プログラミング」する
「数字を組み合わせることで画面上のキャラクターを自由に動かす」「音と映像を組み合わせてストーリーを作る」など、これらができるプログラミング学習ソフトやアプリを使った授業は、子どもの創造力も育むでしょう。楽しみながら論理的思考力・プログラミングの基礎を学べるとあって、全国の小学校で導入されています。

・パソコン・タブレットを使ったWEB授業
インターネット接続環境さえあれば、世界中の教師・生徒と学び、交流することができます。「自己紹介」をお互いにし合ったり、「好きな食べ物」についてディスカッションすることも可能。ネイティブの発音・相手の表情を確認しながら学べます。

情操教育、IT教育との違いは?

【情操教育】
感情を豊かにし、個性・情緒・他者への思いやり・同義的な心を育む教育のこと。教科で言えば体育・図工・音楽などが該当します。

【IT教育】
ITとは「Information Technology=情報技術」の略。パソコン・タブレット・スマートフォンなどの情報機器やデータ通信に関わる技術の総称です。IT教育はパソコン・タブレット端末、インターネット通信を利用することで集中力・論理的思考力を高め、自ら学ぶ力を育てます。

【ICT教育】
IT教育と同じ意味として使われることもありますが、ICT教育はIT教育よりも「Communication(コミュニケーション)」の要素が入ったものです。パソコン・タブレット端末・デジタルコンテンツ・電子黒板などで情報を共有し、意見を交換し合うような学習を含んだものがICT教育になります。

ICT教育のメリット・デメリット

時刻表 タブレット 図面パッド - Pixabayの無料写真 (142323)

小学校は2020年、中学校は2021年から全面実施される新学習指導要領では、情報活用能力を言語能力と同等の「学習の基盤となる資質・能力」として位置づけています。全国の学校で急速なICT環境整備・ICTを活用した教科指導が進むなか、ICT教育のメリット・デメリットがわかってきました。

メリット
  • 視覚、聴覚からの情報量が増えることで学習内容が理解しやすくなる。
  • 板書を写す時間が不要。
  • ICT機器の基本的な使い方を学ぶことで職業選択の幅が広がる。
  • 情報共有ができるので教師と児童生徒、児童生徒同士、教師間でのコミュニケーションの活性化、論理的思考力・指導方法の向上が見込める。
  • 作文、レポートの修正、加筆が簡単。
  • 紙資源の節約。
デメリット
  • 情報通信機器類を調達、管理、運用する費用が高額になる。
  • 設備が高額になるため地域や学校によって整備状況に格差が生まれやすい。
  • 機器の故障・システム障害などのトラブルがあるたびに授業が中断してしまう。
  • 不正アクセス・コンピュータウィルス対策も必須。
  • 「ネット検索」ですぐに回答が分かることで想像力や問題解決能力が育ちづらい。
  • パソコン/タブレット端末を見続けることによる視力低下、 肩こり、ドライアイなどの症状が出ることも。ブルーライトによる眼精疲労も気をつけたい。

【メリット】ITツール導入で、子どもの興味・関心が高まる

教師の板書を読み、ノートに写す従来のやり方も、忍耐力・運筆力・読解力を鍛える効果があり決して悪いものではありません。ただ子どもの特性によっては集中力が切れてしまったり、授業内容の理解よりもノートをきれいに書くことに重点を置いてしまったりする恐れもあります。

電子黒板・パソコン・タブレットを使った学習では、書き写し作業がないため授業内容そのものをじっくり見て理解する時間が生まれます。また、カラフルな図や音声つき動画での解説が可能になるため、子どもは学習内容に興味を持ちやすくなるでしょう。得意な学習・関心のある分野については児童生徒が自主的に検索することで、知識と理解を深められます

子どもの能力に応じて「自分で納得するまで学べる」ところもICT学習のメリットです。

【メリット】授業の効率化など教師側にもメリットが

黒板に授業内容を書いていく従来の方法は、教師にとって二度手間でした。授業の事前準備をして、その内容を授業時に板書しなくてはならないためです。

電子黒板やタブレット端末を使えば、事前に準備した内容をそのまま転送すれば良いので効率的。タブレット端末を生徒一人ひとりに与えることで、個々の理解度の確認を授業ごとにでき「わかっていない子」も置いてけぼりになりません。

また、ITツールを介して情報共有ができるので教師と児童生徒、児童生徒同士、教師間でのコミュニケーションが活発になり、論理的思考力・指導方法の向上が見込めます。

【デメリット】IT機器への設備投資や管理運用、セキュリティ対策などが課題に

パソコンやタブレット等の情報通信機器類を調達、管理、運用する費用が高額になるため、地域や学校によっては「ひとりにつき1台のパソコン・タブレット端末貸与」ができないことも。整備状況に格差が生まれやすいのが難点。

また、機器の故障・システム障害などのトラブルがあるたびに授業が中断してしまうこともあるため、専門知識を持ち、迅速に対応できる教職員を配置する必要があります。また不正アクセス・コンピュータウィルス対策も必須です。

【デメリット】子どもの問題解決能力の低下など

わからないことを徹底的に調べられるのがネット検索の魅力です。ただ、わからないことに対して瞬時に回答が得られるために、子どもが自分で考える機会を減らしてしまいます

疑問・不明点があったとき「子どもが自分で想像・予想する」ことで、問題解決能力・論理的思考力・想像力は養われていくもの。検索する前に予想し自分の考えを書く、発表する時間を教師が意図的に作るなど配慮が必要です。

また、パソコン/タブレット端末を見続けることによる視力低下、肩こり、ドライアイなどの症状が出ることもあり、身体への影響も懸念されています。ブルーライトによる眼精疲労も気をつけたい点です。

海外に比べ、日本のICT教育は遅れている

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アメリカ・イギリスなどの欧米と比べると、日本のICT教育は遅れ気味です。2018年の文部科学省の調査では、教育用コンピュータ1台あたり児童生徒数は5.6人となりました。一方のICT教育先進国の多くは、以下のような環境にあります。
  • 一人ひとりタブレット端末・パソコンが無償あるいは定額で貸与。
  • 校内どこでもインターネットが利用できる設備が整っている。
  • 校内では私物のスマートフォンにもSNS/有害サイトへのアクセス制限がかかるシステムを導入。
  • 幼稚園/保育園世代からアルゴリズム(問題解決のための手順・計算の仕方)、プログラミング言語について学ぶ。
このように情報通信技術を使った学習は気軽で身近なものとなっていて、家庭学習にも日常的に取り入れられています。

最先端のイギリスは、プログラミング教育に注力

イギリスでは、1999年より「ICT」が導入されましたが、政府や各企業から内容に関する多くの指摘を受け、学習内容の見直しを図りました。その結果、2013年に、ICTを3つの分野に分け再定義した「computing」という新たな教科が新設されています。従来のICT教育は、コンピューターの操作やアプリケーションの使い方を習得する内容でしたが、computingは、アルゴリズムの理解や論理的思考力、創造力の向上等を目的とし、さらに踏み込んだ内容になっています。computingは、初等科(5歳~)からの必修科目です。

IT先進国・アメリカはひとり一台タブレット端末が支給

IT最先端技術を誇るアメリカは、12年間の義務教育をICT教育で行います。ICT教育で身につけられるプログラミング技術やコミュニケーション能力、論理的思考力などを用いて「利益を生み出す=国益となる人材」の育成を進めてきました。

2010年代初頭には、アメリカのほとんどの学校で「ひとり一台のタブレット端末の導入」が完了。ネットワーク環境も整備され、超高速インターネット接続および無線LANによって、校内すべてでパソコン・タブレット端末を使った学習ができます。

「四則計算のやり方をタブレットに簡潔にまとめ、生徒同士で発表し合う協働的学習」「パソコンで作った画像・動画のあるレポートを電子黒板に転送し、みんなの前で発表する」「生徒児童の学習到達度に合わせた課題が出される学習補助アプリ」など、授業の多くにICT機器が用いられています。

韓国の電子教科書推進の現状

電子教科書とは教科書内容・辞典・資料・課題などをタブレット端末に取り込んで学習するもの。韓国では2000年代初頭から電子教科書の使用を、国をあげて推進してきました。しかし2010年頃より「電子教科書使用による学力の伸び・定着」に疑問を投げかける教師・保護者の意見が目立ち始めます。

「電子教科書ではわかったつもりでも、頭に入っていない」「子どもにとっては気軽で楽しいものだが、内容を理解できていないのでは?」「何でも検索すればわかる環境は子どもの問題解決能力を低下させる」など、否定的な見解が教育現場にも見られるようになりました。

その結果、2013年より電子教科書の使用を大幅に縮小・制限しています。現在韓国では「紙の教科書」だけでなく、タブレット端末を使う「電子教科書」、教科書内容をパソコンにダウンロードして使う「e教科書」が混在する形での授業が一般的です。

今後の英語教育はICTが活用される方向性に

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2020年より実施される大学入学共通テストでは、英語の評価が「英語4技能評価」となる予定でした。2019年11月、2020年度からの民間の英語試験導入の延期が発表されましたが、今後も英語教育を重要視することは変わりません。文部科学省は英語教育強化事業の一環として「英語4技能育成のためのICT活用普及推進事業」を推し進め、コミュニケーション能力を伴った「話せる・伝わる英語力」の育成を始めています。

紙の教材でも文法・語彙・読解の力を伸ばすことは可能ですが、パソコン・タブレットなどを使うことで視覚・聴覚にも訴える学習ができるでしょう。特にネイティブの発音・表現方法を実際に映像で確認することは、英語力アップに効果的です。

画像や動画を取り入れた「学びやすい、理解しやすい資料・教材作り」が短時間に作成できるので、教師にとってもメリットがあります。

【英語教育ICT活用例】
・タブレットを用いたオンライン英会話授業の導入
話せる英語を身につけるには、ネイティブとの会話の機会を多く持つことが有効。タブレット端末を使ったマンツーマン英会話授業なら、コミュニケーションをとるのが苦手な生徒児童も「会話をせざる得ない状況」になります。またクラス全員が同じ状況なので、恥ずかしさ・躊躇を感じにくくなるでしょう。

海外の教師と「意思疎通」を図るために必死で英語を話すことが、使える英語力を育てます。

・電子黒板に写しだした画像・動画を見たあとに質問を英語で出し、生徒はそれに対してタブレットを使い英語で回答する。

(例)教室の画像を見せて
「How many windows are there?」と文・音声両方で質問します。生徒はタブレットに「There are three windows.」「Three windows.」のように回答。教師は児童生徒の全員の回答を一斉に確認できますし、生徒間でも正誤・答え方の違いを見せ合うことができます。

教師のITスキル育成がこれからの課題に

ICT教育を行ううえで、教師のITスキルはどのくらい必要になるのでしょうか?情報通信機器の使い方・ネットリテラシーについての知識はもちろんですが、端末の不具合・ネットワークやアプリのエラー・不正アクセスへの対応など「授業を中断させるトラブル」を短時間で処理する能力も必要です。

文部科学省が作成した「教員のICT活用指導力のチェックリスト」では、指導力の評価項目として以下の5項目を挙げています。

A 教材研究・指導の準備・評価などに ICT を活用する能力
B 授業中に ICT を活用して指導する能力
C 児童の ICT 活用を指導する能力
D 情報モラルなどを指導する能力
E 校務に ICT を活用する能力
「教員のICT活用指導力の基準(チェックリスト)」より抜粋
「平成30年度の都道府県別 教員のICT活用指導力の状況調査」で、項目B「授業中に ICT を活用して指導する能力 」について4段階評価を行った結果、「わりにできる」あるいは「ややできる」と回答した教員の割合は最高91.3%、最低68.0%と地域によって大きな差が見られました。

情報通信機器の充実・情報通信ネットワーク環境の整備と並行して、校内研修や教育委員会・教育センターなどが実施する研修の充実、外部専門機関講師による指導を受けることが望まれます。

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

AOTANAOAO
AOTANAOAO

2015年よりライターと鞄・アパレル雑貨メーカーのWEBモデルの仕事をしています。Chiik!!では幼稚園入試、英語学童、インターナショナルスクール、親子で作れる知育玩具などの記事を執筆。 教育・健康・レジャー・ファッションなど、「日常生活がより豊かに楽しく送れる」ような情報記事を書いております。