9月入学の導入が話題になっていますが、パパママにとってこの議論は決して他人ごとではなかったことでしょう。今回は見送る判断となりそうですが、政府は今後も議論を続けていくようです(2020年6月現在)。イギリスを例に、9月入学のメリットをはじめ、日本との違いをお伝えします。
日本で今なぜ、9月入学が議論されているのか?
新型コロナウイルスにより学校休校が長引いたことから、授業の遅れを取り戻すための案として、入学・進学の時期を9月にずらす「9月入学制度」の導入が議論・検討されました。
「9月入学制度」の導入については、さまざまな意見があり賛否両論が全国で巻き起こっています。そこで「英国すくすくレポ」では、9月入学のイギリスで子育てをしている筆者が感じた、メリットなどを紹介していきます。
日本も昔は、もともと9月入学だった!?
9月入学を推奨する意見のなかには、海外の多くの国が9月入学を採用しているので、留学がしやすいなど教育のグローバル化が進むのではないかという意見もみられます。
たとえば、9月入学を採用しているの国として挙げられるのは、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ベルギー、トルコ、モンゴル、ロシア、中国など。
しかし、お隣の国・韓国は3月、英語圏でもオーストラリアやニュージーランドでは1月末~2月が入学時期です。また大学入学試験を年に数回実施し、通年入学を採用している国もあります。
ちなみに日本は過去に「9月入学」を実施していたことをご存知でしょうか?
寺子屋や私塾、藩校などで子どもたちが学んでいた江戸時代では、特に入学時期がなく、いつでも入学が可能でした。しかし明治維新が起こり、西洋の文化が入ってくるようになると教育も西洋の流れが影響。それに伴い、明治には日本でも9月入学が主流となっていったのです。
現在では、「日本は4月入学」のイメージが強いので、こんな歴史があったなんて意外ですね!
しかし1886年に、この時代の先進国の中心であったイギリスの会計年度の区切り(4月~翌年3月)に合わせ、日本でも「年度」制を採用。それをきっかけにして、小学校や師範学校の入学時期がすべて4月となりました。さらに大正時代には、高校・大学もすべて4月入学と変わりました。
9月入学のイギリスで感じるメリットとは?
新学期の用品準備がスムーズ
筆者はイギリスの現地校に子どもたちを通わせています。イギリスの9月入学・進学におけるスケージュールは以下の通りです。
4月:(子どもが小学校入学の場合)入学予定の学校が発表される
↓
6月:入学する学校への体験入学が数日間、実施される
↓
7月・8月:夏休み
↓
9月:入学
上記のようなスケジュールなので、夏休みの間に制服や体操服、通学用のバッグ、水筒などの用品を焦らずしっかり準備できて助かりました。
重要な試験が真冬でない
セカンダリースクール(11~16歳が通う中等教育)最後の大きな試験「GCSE」や、大学入学資格として重要な統一試験「Aレベル」など、学生にとって大切な試験は5~6月にかけて行われます。
日本のように真冬の受験ではないので、試験に挑む学生たちが体調管理しやすいというメリットもあります。
ここが違うよ!9月入学のイギリスと4月入学の日本
学生は大喜び!夏休みに宿題がない!
9月入学の場合、夏休みは学年の変わり目なので、宿題がでません!最初は夏休みの宿題がないことに、日本出身の私は本当に驚きました。
現地のママたちに「どうして夏休みの宿題がないの?」と聞いたところ、「だって……9月から先生が変わるのに宿題を出したって、誰がチェックするの?」とのこと。この潔さというか、合理的なところがイギリス的だなと妙に納得してしまいました。
教師側にもメリットが多い
さらにイギリスの小学校の先生に、9月入学のメリットを聞いたところ、「イギリスには部活がないし、先生も夏休みをしっかり休めるのが良い。9月の新学期が始まる前までに、教える側として余裕をもって準備ができるところが助かる」と話してくれました。
他にも日本との違うのは、イギリスの就職には新卒枠がないので、会計年度が始まる4月に合わせて新卒の学生が一斉に入社しない点も挙げられます。
もしも日本で9月入学・7月卒業が採用されたら、新卒者の就職活動の流れや、新卒入社の仕組みも今までと大きく変化するでしょう。
早生まれや学年の区切りも変わります!
入学月が変更されると、学年分けに関する子どもの誕生月にも影響が出ます。ちなみに9月入学の早生まれは、6月1日~8月31日生まれの子どもたちです。
筆者の娘たちを例に挙げると、2月生まれの長女は日本で早生まれですが、イギリスだとちょうど真ん中ぐらいの誕生月。8月生まれの次女は、日本でちょうど真ん中ぐらいの誕生月ですが、イギリスでは早生まれになります。
ちなみにイギリスでは、9月1日を「カットオフ」といって、この日生まれの子どもは必ず次の新学年に入ります。逆に8月生まれの子どもは、入学年をその年にするか次の年にするか選べます。うちの娘は8月9日生まれですが、選べました。
早生まれのお子さんがいる親御さんは、遅生まれのお子さんとの運動能力や学力差を危惧しているケースもあり、9月入学を賛成している人も多そうですね。
9月入学導入は、簡単に答えが出ない問題
メリットがあるとはいえ、もし9月入学を導入したら日本社会では多岐に渡って影響があることが予想されます。大正時代から現在まで、教育機関も経済活動も4月始まりで動いていたため、約半年もずらした9月に変更するのは容易なことではありません。
また個人的には、桜の時期に入学・卒業ができないのは非常に残念。イギリスには入学式がなくサラッと新学期が始まってしまうので、日本の入学式は感慨深いものがあります。しかし9月入学になると、暑い時期の入学式もちょっと大変そうですね。
直近の9月入学導入は、政府・与党の方針として見送りの方針で進んでいますが、9月入学案は実は以前より度々議論されてきたことで、今度の導入を検討される可能性はあります。
現在の新型コロナウイルスの問題だけにとどまらず、今後の社会的な変化やグローバル化など、さまざまな状況を加味してほしいものです。未来を担う子どもたちに一番良い教育環境を与えるには、どういった選択が必要なのかを意識して過ごしていきたいものですね。
取材・文・イラスト:いしこがわ理恵
在英13年目の2児の母、ライター兼イラストレーター。武蔵野美大卒。現在は英国で日本語教育・日本語子ども会活動にも従事。海外生活・育児経験を活かした記事を執筆中。
※いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの過去記事はこちら↓↓↓