子どもの将来に期待するのは親として当然。でも、大きな期待は子どもをつぶしてしまうことがあります。しかし、期待のかけ方次第で子どものやる気を引き出せることも事実。公立校から東大に現役合格した娘の育児を振り返る連載16回目では、上手な期待のかけ方をご紹介します。
期待のかけ方は、相手によって千差万別
子どもが生まれたばかりの頃の親は、「元気に育ってくれればそれでだけで十分」と思う方が多いのではないでしょうか。それが、子どもがだんだんと成長し、習い事やスポーツをはじめたり、学校に通い出したりすると、「頑張って練習すれば、もっと伸びるはず」「もっと勉強して、いい学校に入ってほしい」など、子どもに対するさまざまな期待が出てきます。
そして、つい「もっと〇〇しなさい!」とハッパをかけてしまう。「これは、まさにうちだ……」と思い当たる方もいるかもしれませんね。
もちろん、親の期待に応え、一生懸命努力し、どんどん成長していく子どももいるでしょう。でも、「やりなさい」と言われると、やりたくなくなるという天邪鬼な子どももいます。期待通りにできなかったらどうしよう、という不安から、実力が出せなくなってしまう子どももいるかもしれません。
「期待」といっても、どんな期待をかけ、それをどんなふうに伝えるのが効果的なのかは、子どもの性格や目指すゴールによって違ってくるのです。
どうして期待通りにならないのか
娘が中学生になったばかりの頃、私はのんびり屋の娘にやきもきしていました。部活に、遊びに、勉強にと活発に飛び回るお友だちも多い中、内向きな娘は家で好きなイラストを描いたり、本を読んだりして過ごすことが多く、親としては「そんなに時間があるなら、英検とか漢検とか、もっとチャレンジすればいいのに……」と歯がゆかったのです。
そんなとき、元早大ラグビー部監督の中竹竜二氏が書いた『人を育てる期待のかけ方』という本を見つけました。これはビジネス書なのですが、「はじめに」に書かれたこの言葉に吸い寄せられました。
その期待が、相手に、自分にあらぬプレッシャーをかけたり、やる気を失わせたり、本当の強みを見誤らせたり、と逆のベクトルに結果を向かわせることがあるのです。
実際、中竹氏は本書の中で、監督としてかかわった学生たちのエピソードをたくさん紹介しています。中には、活躍していた選手に期待してリーダーに抜擢したら、荷が重すぎて実力を発揮できなくなり、試合も負けてしまったというケースもありました。
どうしてそんな不幸な結果になってしまうのか。中竹氏は期待外れに終わってしまう理由として、次の3つを挙げています。
・実際に行動するのは「他者」であるにもかかわらず、強制的に要望している
・期待の内容が、期待をかける相手の認識とミスマッチを起こしている
・期待の内容が、あいまいである
子どもの個性を受け入れよう
中竹氏はまず、「自分勝手な思い込みを押し付けない」ことが大事だといいます。いくら親が「コツコツと計画的に勉強するほうが成績が上がる」と思っても、もしかしたら子どもは気分が乗ったときに一気に勉強するほうが伸びるタイプかもしれません。
私は娘に、苦手な数学にも頑張って取り組んでほしいと思っていました。数学の勉強をするよう仕向けたこともあります。でも娘は結局、得意の英語や国語で数学のマイナスをカバーして東大に合格しました。
また、私自身は外に出るのが好きで、いろいろなことにチャレンジするタイプだったので、引っ込み思案な娘が心配で、外で遊ぶよう声をかけたことが何度もあります。でも、だんだんと大きくなるにつれて、「これが娘の個性なんだ」と受け入れられるようになりました。
そうして私が娘のスタンスを認め、そのうえで「こうしたらどう?」などと自分の期待を伝えたり、「〇〇ちゃんはどうしたいの?」と娘の希望を聞くようになったことで、娘も私のアドバイスを受け入れることが多くなったように思います。
子どもが期待通りに動いてくれないときは、その期待が本当に子どもに合っているのか、親のエゴで無理な期待を押し付けていないか、客観的に見つめ直してみましょう。
目指すゴールを一緒に考える
・二人で、期待をかけられる側の目指すゴールを明らかにして、それを共有する
・そのゴールに至るまでのプロセスも具体化し、どんな壁にぶつかり、それを乗り越えるにはどうしたらいいかを一緒に考える
・本人が頑張っていけるように支援する
たとえば、ただ漠然と「もっと真面目に勉強してほしい」と期待するのではなく、なぜ勉強をしてほしいのかを考えてみましょう。受験合格を目指すのか、それとも毎日コツコツと勉強する習慣を身につけたいのか、あるいは得意な分野に打ち込んで、将来につながる何かを見つけてほしいのか。ゴールを明確にすれば、そのために何をすべきなのかも見えてくるでしょう。
そして、それを子どもと一緒に考えることで、子ども自身も目指すべきものがはっきりし、正しい方向に努力できるようになるのです。
娘の大学受験のとき、私たちのゴールは「東大合格」ではなく、「自分に合った大学に合格して、楽しい大学生活を送る」ことでした。なので、娘が模試の結果が悪くて落ち込んでいるときは、「大丈夫、〇〇ちゃんの実力で行けるところが、本当にいい大学なんだから」と励ましました。
娘と一緒にゴールを共有していたからこそ、そんなふうに余計なプレッシャーをはねのけることができたのかな、と思います。
「正しい期待」で、子どもは必ず伸びる
本書には、中竹氏が育てた選手たちのエピソードがたくさん出てきます。
中には「不満ばかり言って意欲がない人をどう成長させるか」「すべてのレベルが低い人のゴールをどう設定するか」といった難しいケースも紹介されています。そんな相手でも、その人に合ったやり方でうまく導いていけば、見違えるような成長を遂げるのです。
中竹氏が選手の個性や目標と真剣に向き合い、一人ひとり違ったアプローチでゴールへと導いていく姿には、感動すら覚えます。そして、そのストーリーの一つひとつが、「人を育てるとはどういうことか」を私たちに教えてくれます。
100人いれば、100通りの期待のかけ方がある、と中竹氏はいいます。ぜひ本書を読んで、自分とわが子にぴったりの「期待のかけ方」を見つけてください。