2018年より教科化され成績評価対象となった「道徳」。道徳教育は子どもたちが、人生をより良く生きる基盤を作るための「道徳性」を養う学習です。この道徳性とは、社会生活を円滑に送るには欠かせない要素。教科化で変化した点・道徳教育で育つ能力についてご紹介します。
道徳教育とは?
文部科学省は道徳教育を「児童生徒が人間としての在り方を自覚し、人生をよりよく生きるために、その基盤となる道徳性を育成しようとするもの」としています。また道徳性を「生命を大切にする心や他人を思いやる心、善悪の判断などの規範意識等」と定義。道徳を学ぶことで自分・他人の命を大切にできる、自分の良心に従って善悪の判断ができることを目的にしています。
教師が「善悪の判断基準」を押し付けるのではなく、生徒が自分の考えを自由に発言・議論できる環境で、道徳性・判断力・論理的思考力・学習意欲を伸ばします。
道徳が「特別の教科」になった理由
義務教育過程である小・中学校での、道徳の教科化には以下の理由がありました。
・2010年代に続発した深刻ないじめ問題
いじめ自殺・リンチ殺人など痛ましいいじめ・暴力事件が全国で続発。「自分・他人の命を大切にする」という基本的な道徳観の欠如が問題視されました。
・情報通信技術の発展による生活の変化
2010年代初頭において、子どもたちのコミュニケーションツールはメールが主流でした。しかしスマートフォンの普及により、わずか数年でコミュニケーションツールはメールからソーシャルメディアネットワーク(SNS)に変化します。
まるで会話をするかのように、気軽に不特定多数の人とつながることとできるSNS。24時間、発信・受信され続ける情報に振り回されることは、家族の時間・睡眠時間・学習時間が減少傾向につながります。
・子どもを取り巻く環境の変化
少子化・核家族化によって、かつて周囲の大人が教えてきた「道徳観・倫理観」が子どもに受け継がれにくくなりました。家族間のコミュニケーションの減少・親世代の責任感の低下など「家庭教育の質の低下」も指摘されています。
・高校生の自己肯定感や社会参画への意識低下
アメリカ・韓国・中国などの諸外国と比べて、高校生の自己肯定感・社会参画への意識は低い傾向にあります。日本の高校生が「自分には人並みの能力がある 」と思える割合は55.7%。それに対して「自分はダメな人間だと思うことがある」と考える割合は全体の72.5%でした。
自己肯定感・自己評価が低いため「私の社会参画で日本が良くなるとは思えない」という考え方になり、おのずと社会参画意欲が低下しているのでしょう。
出典:(財)一ツ橋文芸教育振興協会、(財)日本青少年研究所「中学生・高校生の生活と意識 -日本・アメリカ・中国・韓国の比較-(2009年2月)」
・予測できない「与えられた正解のない社会状況」
グローバル化の進展・情報通信技術、科学技術の進歩・高速で進む少子高齢化など、先の読めない社会情勢のなかで子どもたちは道徳観・多様な価値観を学ばなければなりません。損得勘定を超えた道徳に基づく正しい判断基準を用いて、自分と他者が幸せになれる決断を自らの意思で行う力を道徳教育で育みます。
道徳的価値を自覚し、自ら考え、他者を尊重しながら「最善を尽くせる資質・能力」がこれからの時代には必要です。児童生徒の道徳性の育成は「より良く生きる力」を育てることと言えるでしょう。
教科化されることで変わったこと
教科書に沿って、小学1年生は年間34時間、小学2年生から中学3年生までは年間35時間の授業を行わなければなりません。教科化前と授業時間は変わりませんが、教科化によって履修の義務が生じます。
・検定教科書の使用義務
文部科学省の教科書検定に合格した検定教科書を使用しなければなりません。合格判定基準は「教科書の記述が客観的で公正なものとなり、かつ適切な教育的配慮がなされたもの」であるか否か。教科化前では道徳の授業内容は自由でした。教材も教師が選んだものでOK。副読本と呼ばれる教科書に近いものに沿った授業、道徳の教育番組を視聴して感想を書くなどさまざまでした。
・成績評価
国語や算数のように成績表に評価がつきます。数字による相対評価は行わず、授業への取り組み方・道徳性の成長の様子を記述式で評価します。道徳には正解・不正解はありません。自らの感じたことを言語化・文章化したり、クラスで議論をするなかで「社会的な善悪」「自分の道徳観」「他者への理解」を見つけていく学習です。
道徳教育の内容
この目標を基に、学年ごとA~Dの4つの視点から具体的に学ぶ内容が決められています。ここでは小学校低・中・高学年の学習内容を抜粋してご紹介しましょう。
A.主として自分自身に関すること
・低学年(1、2年生)
健康や安全に気を付け、物や金銭を大切にし、身の回りを整え、わがままをしないで、規則正しい生活をする。
・中学年(3、4年生)
自分でできることは自分でやり、よく考えて行動し、節度のある生活をする。
・高学年(5、6年生)
生活習慣の大切さを知り、自分の生活を見直し、節度を守り節制に心掛ける。
B.主として人との関わりに関すること
・低学年(1、2年生)
気持ちのよいあいさつ、言葉遣い、動作などに心掛けて、明るく接する。
・中学年(3、4年生)
礼儀の大切さを知り、だれに対しても真心をもって接する。
・高学年(5、6年生)
時と場をわきまえて、礼儀正しく真心をもって接する。
C.主として集団や社会との関わりに関すること
・低学年(1、2年生)
約束やきまりを守り、みんなが使う物を大切にする。
・中学年(3、4年生)
約束や社会のきまりを守り、公徳心をもつ。
・高学年(5、6年生)
公徳心をもって法やきまりを守り,自他の権利を大切にし進んで義務を果たす。
D.主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること
・低学年(1、2年生)
生きることを喜び、生命を大切にする心をもつ。
・中学年(3、4年生)
生命の尊さを感じ取り、生命あるものを大切にする。
・高学年(5、6年生)
生命がかけがえのないものであることを知り、自他の生命を尊重する。
社会生活を営むための道徳観念・生命を尊重する姿勢・相手を認める心の広さを育てる指導内容になっています。和を重んじながら、自分の意思表示ができることは、日本はもちろん国際社会でも評価される能力です。
教材
2014年より『わたしたちの道徳』に名称変更されています。
「生きる力」を育てるイギリスPSHEとは?
これを日本の小・中学校、高校にあたる初等・中等教育課程で学びます。人種差別・いじめ・ドラックなど子どもが直面するであろう問題を多角的・具体的に学び、議論する学習は日本の道徳が目指すものと言えるでしょう。
道徳教育で問題視されていることとは?
・検定教科書を使うことで「道徳観・価値観」のとらえ方に偏りが生じる懸念
文部科学省の教科書検定では、「国の政策」と「国際関係への配慮」との兼ね合いも評価基準となります。たとえば過去には下記のような改訂が行われました。
「パン屋」を「和菓子屋」に変更:
愛国心・郷土愛を育てるため。日本の伝統・文化を重んじるため。
「消防団のおじさん」を「消防団のおじいさん」に変更:
年長者への敬意を表すため。
世情・政策に合わせるために不要な改訂がされているとの意見も見られます。
・評価内容の質が教師によって違ってしまう
道徳はほかの教科のように、テスト・通知表を数値で評価しません。ほかの生徒との相対評価ではなく、絶対評価です。児童生徒が成長した積極的に評価する「記述による積極的評価」がされます。さらに項目ごとでは学期を通した「大くくりなまとまりを踏まえた評価」になるため、評価内容が抽象的になる恐れもあるでしょう。
また積極的に「褒めて伸ばす」評価を勧めることで、改善点の指摘がしづらくなりそうです。
道徳教育は通知表で評価されるの?
「廊下で会う先生、父兄の方にも自分から明るく挨拶していました。みんなの読書棚の本を、頼まれなくてもいつも整理しています。誰も見ていなくても『正しいこと』を行う姿勢に感心しました。」
このように積極的に利点をあげた、励ます評価がされます。
「善悪」は幼児期にしつけの一環として
もちろん、早寝・早起きを習慣づけする、好き嫌いをしない、感謝・謝罪を言えるようにするなど日常生活の中での当たり前のしつけも大切。お手伝い・地域コミュニティ行事の参加などで「他の人のために働く」経験もおすすめです。