2022年04月30日 公開

子育て・教育現場のジェンダーについて考える【英国すくすくレポ】

センシティブな問題でもある「ジェンダー」について、子育てや教育現場でどのように対応するかが問われる現代。今回の英国すくすくレポでは、イギリスでの子育て・教育現場から見た「ジェンダー」についてお話していきます。

生まれたときの身体的な性で「男の子」「女の子」と分けて、席替えや授業中の組み分けをしていたパパママの子ども時代に比べ、現在は状況が少しずつ変化してきています。また、センシティブな問題でもあるので、子育てや教育現場でもどのように言葉を選ぶか、対応するかが問われています。

今回の英国すくすくレポでは、イギリスでの子育て・教育現場から見た「ジェンダー」についてお話していきます。

現代社会におけるジェンダーとは

近年、よく聞くようになった「ジェンダー」という言葉ですが、もともと英語でのgender(ジェンダー)は、単に「性別」の意味でつかわれる単語です。しかしながら、現代の性別や心の多様化に伴い、生物学的な「性別(sex)」に対して、性別認識つまり社会的・文化的に形成される性別を意味する言葉として使われることが増えてきました。

社会的・文化的というのは、例えば「社会に出て働くのが男性」「家事・育児をして家庭にいるのが女性」という文化的な思い込みや認識による性別区分などのことです。また、自分の恋愛対象や心の性別と体の性別の認識について悩んだりすることが多い思春期の時期にも、この「ジェンダー」について考えてみる機会を作ることはとても大切です。イギリスの小学校では、「ジェンダー」「一人一人を尊重すること」「違いを認めること」などを、幼い頃から学んでいきます。
学ぶと言っても、教科として取り組むのではなく、そういった話をする機会を学校の中で設けたり、生活の中で認識し話し合うという取り組み方です。

筆者が子育てをしていて気づいたことの一つとして、「社会的・文化的に形成される性別の思い込み」という点で、服装・髪型が与える影響は思いのほか大きいということ。日本を例に挙げると、昔はランドセルの色が身体的な男女の性別で決められていました。また今でも、制服が男女ではっきり違うデザインという学校が、まだ多いのではないでしょうか。

イギリスで子育てをして感じるのは、まず男女ということで持ち物や制服がはっきり分かれていることは少ないということです。現地の公立小学校を例に挙げると、学校へ持って行くバックは一種類(ブックバッグと呼ばれる薄いバッグ)ですし、制服も男子はトレーナー、女子はカーディガンを着ていることが多いですが、お兄ちゃんのお下がりがあるからとか着やすいからという理由で、女子もトレーナーを着ていることもあり、それによって目立つということはありません。同じく、スカートでもズボンでも選ぶことができます。遊具で遊ぶときに下着が見えるのがイヤだということでズボンを着ている子もいますし、心の性別によりズボンがしっくりくるから選ぶという子もいるようです。

髪型も外見で性別を判断する基準になりやすいですが、イギリスは多民族国家なので髪質も髪型も色も好みも、本当に人それぞれ。お母さんだけど刈り上げピンク色の髪型、お父さんだけど三つ編み、髪質を活かしてアフロなど自分スタイルを大切にしている方々もいますが、それに対して誰も何も言いません。
顔の雰囲気も身長も肌の色も、人種やDNAによって本当に異なるので、周りと比べることがナンセンスという意識があることも一因です。それが、個人の尊重に役立っていると感じます。

教育現場もジェンダーにおける注意が必要…

現地で小学校の先生をしている方がおっしゃっていましたが、近年ではクラスでペア(二人組)を作ったりグループを組み分けをするときに「男女に分かれて」という言葉を使わないように指導されたそうです。これは心身の性別の差異を考慮に入れたり、ジェンダー教育の取り組みによるものです。

学校にもよりますが、この先生の働く低学年のクラスでは「フィッシュ&チップス」「ケチャップ&マヨネーズ」「マカロニ&チーズ」などの組み分けをあらかじめ決めておいて、「はい、じゃあ、フィッシュとチップスに分かれてね!」と授業を進めるそうです。ネーミングが可愛いくて微笑ましいですね。
少し日本の紅組・白組に似ているかもしれません。
ちなみにイギリスは、体育の紅組・白組という概念がなく、ハウスカラーという複数の色に分けられます。ハリーポッターの世界に似ていますね。

イギリスのハウスカラー・小学校教育についてはこちら

とはいえ、まだイギリスの教育現場でもジェンダーについては試行錯誤という部分もあるようです。

これは一例ですが、新入生の中に「体は男子で心が女子」という生徒が入学することになりました。学校側としては気持ちを尊重してあげたい、けれどトイレなどの設備の事もあるので、どこまで対応ができるか?ということをご両親を交えて入学前に話し合いを行ったそうです。先生方の間でも、その生徒の気持ちを尊重した内容で情報の共有が行われ、「He」ではなく「She」で呼ぶこと、からかいなどが無いように先生方が注意を払うことなどの対応が行われました。

他にも、イギリスはドレスアップデーと呼ばれる「テーマ」に沿った衣装を着て登校する日と言うのがあります。ある日、(一番幼い学年の)男の子がバレリーナのチュチュをつけて登校してきました。先生方は「これはこの子が今日来たかったドレスアップの衣装なんだね」ということを受けとめて、「似合っているね」と声をかけ、男の子も嬉しそうにしていたそうです。

イギリスは人種差別には一番厳しく、小学校で「誰かをいじめる・からかう」ということに対しても厳しく対応してくれます。先生方の毅然とした対応で、筆者の子どもも助けられたことが何度かありました。
特に、幼い子どもは意図的に「いじめる」といよりも、「他と違って違和感だから」「どう対応したらいいか分からないから」相手の心を傷つけてしまうという、未発達ゆえの残酷さが出ることがあります。幼い頃から、先生方、周りの大人が「相手を尊重しよう」と伝えて実践していくことが、結果的に一人一人が生きやすい社会の形成に繋がるはずです。

子どもたちの世界

私を含め、今のパパママ世代が子どもの頃にあまり考えたことが無かった「ジェンダー」や「性」の問題を、今の子どもたちは感じながら成長しています。良くも悪くもメディア(映画やドラマ、Youtubeなどを含む)からの影響もあるでしょう。

ときどきメディアから流れてくる情報を見て、大人の私の方が驚いてしまうこともあります。ですから、子どもの世界はよほど複雑で難しいのではないか…と感じていたのですが、学校でジェンダー教育があっているらしく、意外とすんなり受け入れいるようす。子どもから「みんな違っていいんだよ」という言葉を言われたときには「なんか大人な発言…。」と10歳を見つめてしまいました。

年齢もあってか、最近は「恋愛」についても少しずつ興味が出てきた発言も多くなり、誰と誰がボーイフレンド・ガールフレンドという話をしていたり、母親としては「そういう時期に入ってきたのか」と複雑な心境です。

そんな中、学校の事をなんとなく雑談していたときに「クラスのA君がB君のことを好きなんだって。自分で言ってたし、みんな知っているよ。まあ、一緒にいると明らかに嬉しそうだし…」と話してくれました。私はそれを聞いて結構オープンなことに正直驚きました。私が子どもの頃ならきっとからかいの対象になってしまっていたかもと。
他のご家庭でも、やはり似たような会話があって、「〇〇ちゃんって、どっちの性別でもないんだって。」という話題が出たりするそうです。子どもはたちはあっけらかんと話すので、固定観念に縛られているのは、大人の方なのかもしれません。

英語圏ならではのアイデア

イギリスでもうひとつジェンダーに関することをご紹介します。これはイギリスに限らず「英語」という言語だからこそなのですが、文章や発言中に「私、あなた、彼、彼女、彼ら」というような主語を抜いて話す(または、その相手の名前を使って話す)ことが多い日本語に比べ、英語は「I, You, He, She, They」などを頻繁に文章に入れて話しますよね。

この言い方で、第三者について話すときに避けて通れないHeやSheという単語ですが、ここにもジェンダーの問題が関わってきます。
生まれて名前を授かってから「名前は男、体も男、だけど心は男ではない」という場合や、その逆である場合、または外国出身や外国ルーツで名前だけでは男女の判断が付きにくいというシチュエーションがあります。例えば、日本で多くある「子 ko」や「o」の音が最後に着く名前は、文字で判断しただけでは男性の名前と認識されやすいというのも、その一つです。

そういう混乱を避けるために、最近ではEメールの自分の名前の最後に、自分をどう呼んでほしいのか、つまり「彼」なのか「彼女」なのか、他の呼び方が良いのかということを記載する動きがあります。特に深い理由でそれを書いているわけではないが、友人知人に勧められて使い始めたという人もいます。

これならば、メールを受け取った方にも意志が伝わりやすいですし、メールのたびにモヤモヤする必要もないですよね。英語圏ならではのアイデアです!

多様化と相手の気持ちを尊重する心

ジェンダーと一言で言っても、現代でそれは「男女の格差や差別の問題」に関してであったり、「身体と心の性別」のことや「恋愛対象の性別」に関するLGBTQのことであったりと、幅広い内容を包括する言葉です。まだまだ本人も周りも試行錯誤で取り組んでいることであり、簡単に答えを出せることではないかもしれません。

だからこそ大事なのは、自分や目の前にいる人の気持ちを大切にし、思い込みを押し付けることなく、それぞれが幸せに人生を生きていける社会を共に創造していくことなのではないでしょうか。気づかないだけで、私たちの中にはたくさんの先入観や固定観念があります。それが、自分自身を苦しめている場合もあります。

子どもたちと一緒に、子どものような柔軟な心で、「世界に一人だけの自分という存在・相手という存在」を尊重していけると良いですね。

■いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの記事はこちら↓↓↓

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この記事のライター

いしこがわ理恵
いしこがわ理恵

在英12年目ハンドメイド好きの2児の母。武蔵野美術大学卒業。現在は教育に携わる仕事の他に、日本にルーツのある子どもたちを対象とした日本語子ども会活動・児童文庫活動も行っています。興味の範囲が幅広いので、常にいろいろな方向にアンテナをはりつつ情報収集が日課です。ハッピー子育てに役立つ情報をみなさまにお届けできれば嬉しいです。Instagram @rie.ishikogawa