脳研究者の池谷裕二さんが、脳の発達を分析しながら娘の成長を記した「パパは脳研究者」。子どもはどうしてこんなことをするの?親はどう対処すればいい?という疑問を、脳科学の見地から解き明かしてくれる本です。一般的な育児書とは違った視点が得られますよ。
子どもの脳はどうやって成長するの?
著者:池谷裕二(著)、きくちちき(絵)
出版社:クレヨンハウス
著者の池谷裕二さんは東京大学薬学部教授で、脳の成長や劣化について研究をされています。本書は、その池谷さんが自らの育児体験を通じて、子どもの脳の発達を分析したものです。
とはいえ本書は、難解な研究書でもなければ厳格な育児指南書でもありません。新米パパがはじめての育児に奮闘しながら、目覚ましい子どもの脳の発達に新鮮な驚きを感じる様子が、臨場感たっぷりに書かれています。
今回はこの本の中から、特に筆者が心に残った部分をピックアップしてご紹介します。
早期教育は必要?不要?
私が幼児教育で重視したいのは、小学生で習うような計算や漢字を、いち早く教え込むことではありません。(中略)一方的に親が焦って、ムキになって教えたところで、その効果は一過性です。
さらに、池谷さんは早期教育について次のように釘を刺しています。
幼児を見れば、親が「どれほど教育熱心か」がすぐにわかります。早く教えれば教えたなりに習得できるからです。しかし、それは親の自己満足にすぎず、真の意味での「かしこさ」とは異なります。
著書の中に書かれていることですが、人は「対処したけれどできなかった」ことよりも、「対処しなかった」ことの方が、より責任が重いと感じる傾向があるそうです。その中で、「早期教育をしない」と決断することは、とても難しいことです。
私たち親は、漠然とした親の不安感から、子どもに過剰に干渉してしまっていないかということを、時々立ち止まって確認してみる必要がありそうです。
絵本を子どもに読んでもらおう!
脳科学の点からも、読んだり聞いたりする「入力」より、しゃべったり書いたりする「出力」のほうが重要だということは、はっきりしています。
親に絵本を読み聞かせてもらった子どもは、意欲をつかさどる脳の前頭葉が強く活動していることが知られています。文字が読めるようになったら、子どもに絵本を読んでもらうという「出力」の機会を設けると、より脳の成長に役立つでしょう。
絵本を自分で読めるようになるまでは少し時間がかかりますから、文字を覚えるまでは、子どもに絵本の感想を聞いたり、今日起きたことを話してもらったりすると、「出力」の機会を増やすことができますよ。
ほめられると好きじゃなくなる?
ところが脳の機能から考えると、このほめ方はできるだけ避けるべきだと池谷さんは言います。
人は、自分の思惑と現実が矛盾していることにストレスを感じます。このストレスを認知的不協和と呼び、脳はその矛盾を解消しようとします。例えば、「あの洋服が欲しいけれど値段が高くて買えない」とき、脳は「あの洋服は手入れに気を遣うから欲しくない」といった、認知的不協和が解消される理由を見つけ出そうとするのです。
同様のことが、育児においても生じます。子どもが、ただ単に好きだから熱心に絵を描いていたのに、親が「えらいね」とほめてしまうと、絵を描くことへの興味が薄れてしまうことがあるそうです。
子どもからすれば、ほめられ続けることで、「自分は絵を描くことが好きだったのではなくて、もしかしたら、ほめられたくて描いていたのかな?」と無意識に現状の解釈を変更します。認知的不協和の解消です。結局、その子は絵を描くのをやめてしまいます。
脳の仕組みを知れば、子育てが楽になる!
子どもが「自分で!」とガンコになる、良かれと思って手助けをしたらすねて根に持つ、ウソをつく……。それらの子どもの困った行動も、実は脳が発達しているからこそだということをこの本で知ってからは、子どもの行動がとてもおもしろく、たくましく感じられるようになりました。
今回ピックアップした内容以外にも、「しつけはしかるべきか諭すべきか」「自発的に行動してもらうにはどうしたら良いか」といった、親が知りたい内容が盛りだくさんに書かれています。
「脳科学に則った子育てのコツ」を知りたい方は、ぜひ本書を手にとってみてくださいね!