美術館や博物館で騒いだりしたらどうしよう?どうやって楽しめばいいの?と迷っているパパママに、子連れのミュージアム・デビューのポイントとその後のフォローまで、素朴な疑問から悩みまで答えていただきました。子どもと一緒にミュージアムを楽しむコツをお届けします。
子どもたちのミュージアム・デビューを応援
親子で「はじめてのミュージアム体験」を楽しんでもらうことをサポートするこのプロジェクト。マネージャーを勤める東京藝術大学特任准教授の伊藤達矢さんに、親子でミュージアムを楽しむコツを伺ってきました。
伊藤達矢先生は主に東京都美術館×東京藝術大学「とびらプロジェクト」など、多様な文化プログラムを企画立案から運営まで実施されています。
子どもを美術館や博物館に連れて行くなんて迷惑では…
伊藤:ミュージアムでのマナーもいわばレストランのマナーと同じです。食事をしている時に、一言も話してはいけないわけではないですよね。美味しかったり、綺麗だったりすれば、一緒に居る人とそれを共有したいと思いますし、話をするからこそ一層美味しさや楽しさが膨らむのだと思います。
でも、他の人もいるので、その場にふさわしいマナーがあります。それと同じように、ミュージアムでのマナーは、展示室の中では走らないこと、作品はみんなが大切にしているものだから触らないこと、それと思ったことや感じたことは小さな声でお話しすることの3つです。でもマナーとは、たんに決められたルールを守ることではなく、自分以外の人の環境に配慮したり、相手の立場を尊重することだったりします。
「Museum Start あいうえの」を通して、それを親子で理解してもらい、楽しくミュージアム・デビューしてもらえればと思っています。
例えばお父さんやお母さんから、小さな声で「ここの部分がキレイだね」と具体的に子どもに話しかけてあげるだけで、感じたことを話していいんだということがわかります。大人も子どももマナーがわかれば、居心地の良さが全く違ってきます。お互いにとっていい空間になるよう一緒に学んでいければいいですね。
子どもと一緒に見る際、声がけの工夫はどうしたらいい?
伊藤:基本的には同じ目線で大人も一緒に楽しく作品を見ることが一番です。知っていることを教えてあげようという気持ちで行かないこと。目の前にあるものを一緒に見て一緒に発見することが大事です。
大人もちゃんと作品に目を向け、こう見えたこう感じたと自分で得た気づきを子どもに言葉できちんと伝えてあげるのがひとつです。
答えを教えようとするのでなく、一緒に作品を見ていく中から新しい価値や気づきを求めていけるようなコミュニケーションをぜひしてみてください。
入口から出口まで同じように見ることが正解ではない!
伊藤:美術館に来る前に、ホームページなどを一緒に見ながら、「今度この美術館でこの作品を見よう」と事前にコミュニケーションがあるとベストです。どんな作品に出会えるのかを知って、その日が来るのを楽しみにしている時間が充実していればいるほど、美術館での子どもたちの鑑賞は深まります。また美術館の中では、展示の入口から出口まで、全ての作品を同じスピードで見続けていくのは、子どもにとってはあまり楽しいものではないでしょう。子どもは展示室がどのくらいの広さかよくわからず、どこまでこの淡々とした時間が続くのか見通しが立たないと退屈してしまいがちです。
そこでまずは、一回ザーッと展示室の最後まで行ってみましょう。ここはどのくらいの広さの展示室で、どんなものがあるのかということを親子で把握するのがおすすめです。
そして、子どもが気になった作品を一緒にじっくり見ること。まず事前に見たいと決めた一作や気になった作品を探して、それを重点的に見てみましょう。
年齢にもよりますが、小学校の高学年以上なら、親子別々に一人で見る時間をつくるのも良いと思います。その後、子どもが気に入った作品を教えてもらい、どうしてそれが気になったのか聞いてみましょう。
そして、子どもだけではなく、大人も自分が気に入った作品を伝えましょう。すると、お互いの視線が似ていたり、違っていたりということに気づくと思います。そこで、お互いそれぞれに好きな作品を紹介し合うという時間をもつと、楽しくなると思います。
何度も繰り返して同じ作品を見てもいいと思います。展示室内での動き方は、親子間のコミュニケーションによって変化させる。そうするともっと楽しい時間になるのではないでしょうか。
子どもにとっても、ただ連れられて行き、何の会話もなく歩き疲れる鑑賞体験とはかなり違うものとなるはずです。
子どもにあわせた美術館や企画展の選び方は必要?
伊藤:「Museum Start あいうえの」はあくまできっかけのひとつです。今、さまざまな美術館で子どもも楽しめる展示も企画されていますが、特に子ども向けの内容にこだわらなくても良いと思います。作品は全ての人に開かれていますから。
大切なのは一緒にいる大人が、展示室の中では子どもたちも大人も一緒に鑑賞していいんだよ、と迎え入れる気持ちで接することだと思います。子どもたちにとっても、そうした大人と対等に過ごす時間の体験が、社会に参加して行く意識を育むことにつながるかと思います。
——人気があり、混んでいる特別展より常設展の方が良いでしょうか?
伊藤:「子どもがどうしてもこれが見たい」と興味を持っているのなら、混んでいても、行く価値が充分にあるでしょう。でもそうではなく、ミュージアム・デビューに選ぶなら、混んでいる特別展より常設展を活用するのがおすすめです。常設展は、入れ替わりもありますが、訪れる度思い入れができたり、子どもの成長具合によっても感じ方が違ったりして、時や状況の変化で、同じ作品への見方が変わることもわかります。
途中で子どもが嫌がったりぐずったりしたらどうすればいい?
伊藤:基本的には無理に見せないことだと思います。一作品でも一緒に見ることができれば、充分だと思います。
もちろん、その時の状況によって違うと思いますが、例えば「休憩スペースに行って座ってみる?」と提案するのも良いでしょう。子どもの将来においては、これから体験できる何十回、何百回のミュージアムでの鑑賞のたった一回に過ぎません。親が、せっかく来たのにと、なんとか最後まで見せようとして、それがその後嫌な体験として残ってしまうくらいなら、タイミングを変えてみるなどした方がいいと思います。
——東京都美術館や東京国立博物館では託児サービスも提供していますね。
伊藤:託児を利用して、混雑している特別展はお父さんお母さんだけが見てもいいですし、その家族の構成や年齢に合わせて自由な楽しみ方ができるといいですね。野外彫刻もありますし、外に出て自然と共に作品を楽しむのもいいでしょうね。
ノートに綴ろう!感想や振り返りの大切さ
伊藤:体験を振り返る時間はあった方がいいとは思います。例えば「Museum Start あいうえの」で渡している「ミュージアム・スタート・パック」に入っている「ビビハドトカダブック」では、展覧会のチラシやチケットを貼ったり、印象に残った作品をスケッチしたりして記録できるようにしています。
webサイトでは、みんなの冒険の記録を「ビビハドトカダブックギャラリー」として公開しています。行き先、年齢層でも検索可能なので、どんな風にまとめたらいいかの参考になるかもしれません。ぜひweb サイトをチェックしてみてください。
「どういう作品が印象に残っているか」という会話を親子でするだけでも、その日の体験が特別なこととして残りやすくなりますね。