2024年05月01日 公開
アントレプレナー教育

日本における「アントレプレナー教育」の必要性

「上松恵理子が語る!これからの子どもたちに必須なスキル」連載第3回は、アントレプレナー教育(起業家教育)について取り上げます。外国で行われている先進事例を通じて、アントレプレナー教育のポイントをお伝えします。

アントレプレナー教育

みなさん、こんにちは。
「上松恵理子が語る!これからの子どもたちに必須なスキル」第3回では、シンガポールで実際に行われている事例からアントレプレナー教育のポイントをご紹介します。

アントレプレナー教育とは何か

アントレプレナー教育[1]は、起業の具体的なノウハウだけでなく、最近ではアントレプレナーシップ教育のような起業家に求められる態度や精神までも含めて行われています。特に海外では小学校の低学年から学校教育の場で盛んに行われるようになってきました。

中学生からイノベーターを育成するシンガポール

訪問したシンガポールの学校では、「科学技術の知識を使い情熱的なイノベーターの育成することを掲げ、生徒の創造性・批判的思考・問題解決能力を育成しプロジェクトを通して学習がどう関わるのかを理解することでやりがいを感じるような社会課題に挑戦させる[2]」を行っていました。

中学生で起業というと、日本では「まだ早い」という感覚があるかもしれませんが、学校内に会社を興している例もあると聞き、その様子を視察しました。行ってみると、中学生が自分の会社を学校の中に登記して置き、生徒達だけで構成・運営がされ、会社の経営実績はアプリをローンチ(公開)し、7万1千以上ダウンロードするという事例でした。

色々なアントレプレナー教育を視察しましたが、生徒たちがeコマースなどを利用する事例もありました。このように、方法は様々ですが、まずはインターンシップ的な形で学んだり、運営のための研修をしたりという方法を取っている授業は少なくありませんでした。また、正式な従業員になった場合に備えて、中学生が経営サイドの立場で新入社員の指導、取締役会を行っていました。

このように小学校の低学年で取り組まれているアントレプレナー教育ではありますが、家庭でも「就学前から起業家精神に関わるやりがいのある経験をさせる」ことは、有意義なことと感じます。特に就学前に取り組むには次のようなポイントが挙げられます。

アントレプレナー教育のポイントとは

アントレプレナー教育に関しては様々な角度からのアプローチ手法があります。今回は家庭で日常的に取り組む際のポイントと、教育機関が提供できるポイントに分けてご紹介します。

家庭で意識できるアントレプレナー教育

海外では「就学前でも家庭で取り組むべき」と感じている保護者は少なくありません。教育機関だけでなく、家庭でも日常的に取り組むべきポイントがあります。
経済を取り巻く世界動向は刻々と進化しているため、保護者が最新のトレンド情報を得て、起業家教育に関連性のある最新の情報を家庭で会話をすることは大事です。子どもたちがニュースを深く理解するのに役立つためです。

教育機関が提供できるアントレプレナー教育

小学校低学年や就学前に教育機関が提供できることとしては、市場分析や財務など、起業家の基本的な概念を理解した上で情報を提供する事。そして、起業家精神に関連する主要なトピックをカバーするカリキュラムを作成する事です。
また、クリエイティビティ、クリティカルシンキング、問題解決スキルを促進する活動やプロジェクトなどを行うことが、経験を通して起業に関わるということに理解を深めることができます。

一方で、オンラインリソース、動画収集など、年齢に適した魅力的な教材を渉猟し、プロジェクトを作成し、終了までに学習者に何を達成するかの目標設定をします。海外の場合は中学校で実際に起業させる事例もあります。
結果ありきではなく、プロセスを重視しつつ、学習を継続しながら、起業家としての目標を追求するモチベーションを上げるようにすることがどの場面においても大事です。

アントレプレナー教育は生きるために必須なスキル

アントレプレナー教育

スウェーデン訪問時、戦争のための難民を多く受け入れていた小学校に行ったところ、小学生がアプリを作成してそれを販売した事例を見せてもらいました。これは起業家教育で間違いないのですが、コンセプトとしては「起業家教育は大事だからやろう」というものではなく、「明日食べるパンもないので生きるために行う」という切実なもので驚きました。

今でも2つの戦争があるVUCA[3]の時代、世界がいつ何時どのようなことが起るのかは予測不能な時代でもあります。そのため、海外ではアントレプレナー教育は、生きるために必須なスキルだという教えも存在することは確かです。「今は日本は平和だから早い」ということではなく、将来、子どもが豊かで幸せになるように保護者としてできることを日々考えることの一つとして、アントレプレナーの観点は重要だと考えます。

[1] 起業家教育
[2] 上松恵理子「シンガポールの教育最新事情 -視察事例より-」情報処理学会情報処理
発行年 2024-01-15巻65号2、ページ82 – 86
[3]VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。予測不能な状況や時代のこと。

▪️ライタープロフィール
上松恵理子

上松恵理子
プロフィール& 略歴
博士(教育学) 早稲田大学ビジネススクールEMBA(Executive MBA )コース修了
東京大学先端科学技術研究センター客員上席研究員(現任)
早稲田大学情報教育研究所招聘研究員(現任)
新潟リハビリテーション大学特任教授(現任)
<アドバイザー、理事、顧問>
教育における情報通信(ICT)の利用活用促進をめざす議員連盟有識者アドバイザー(2016~現任)
総務省プログラミング教育会議委員
文部科学省委託事業欧州調査主査 和歌山県ICT教育アドバイザー(きのくにICT教育アドバイザー:現任) 魚津市ICT教育アドバイザー(現任)
Asuka Academy 理事(2014~現任)
情報通信政策フォーラムICPF理事(2020~現任)
株式会社スノーピーク社外取締役(2022~現任)
COCOAS株式会社(2023~現任)

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この記事のライター

上松恵理子
上松恵理子

博士(教育学)の知見から、ICT教育に新リテラシーを取り入れることの研究と実践に取り組む。アジア各国より招待講演を受け、多くの海外で研究発表を行う。上松恵理子オフィシャルサイト