イギリスで年々、増加している「ホームスクーリング」。イギリスの教育事情を踏まえながら、その魅力とメリットを、実例とインタビューを交えながらご紹介します。また、日々の生活や家庭学習に取り入れられるポイントも合わせてお伝えします。
イギリスの義務教育は11年間!イギリスの教育事情とは
そして、一度はじまってしまえば4歳でもフルタイムで週5日間の学校生活が待っているのが、イギリスの学校生活の現状です。それが10年以上続くわけです。想像すると、なかなか大変そうですよね。
ホームスクーリングを選ぶ理由
それ以外の理由、例えば、対人関係の問題や教育機関との意見の相違、子どもの体調や健康上の理由、その他家庭の事情により、ホームスクーリングを選択する家庭もあります。
イギリスでは、現在少なくとも3万6千人以上の子どもたちが、ホームスクーリングを選択しているといわれています(任意回答による数なので、実際にはさらに多い人数がいると考えられています)。
映画「ハリー・ポッター」シリーズで有名な女優エマ・ワトソンさんも、映画の撮影時期は多忙で学校へ通うことが困難だったため、ホームスクーリングに切り替え、撮影現場で勉強していたそうです。
ホームスクーリングを開始したい場合は……
ですから、たとえ一度学校に入学して教育を受けはじめても、途中でホームスクーリングに変更する意向が決まれば、手紙で学校へ届け出をすることにより、ホームスクーリングを開始することができます。
また、再度学校へ戻りたい場合も学校のウェイティングリストに登録。順番がくれば、就学での学習を再開できます。
中には、ホームスクーリングをしながら、数日だけ通学することを許可してくれる学校もあるようです。学習方法に対する国の柔軟な姿勢が、イギリスでは感じられます。
各地域には、ホームスクーリングを取り入れている家族で作る自助グループがあり、学習内容やカリキュラムの情報交換などの教育面はもちろんのこと、他の子どもたちと一緒にスポーツをしたり、友だちを作ったりといったグループ活動面や社交面のフォローもできるようになっています。
ホームスクーリングのメリットとは?
Aさんのご家庭の場合
そこで家族で話し合い、ホームスクーリングを選択。父親の仕事がある地域に一緒についていくこともでき、そこでさまざまな経験ができるようになったといいます。
父親の仕事がオフの時期には、家族で有意義な時間を共に過ごせるようになり、家族の絆が深まったと感じているそうです。
Rさんのご家庭の場合
ご両親は、なるべく早く学校を転校させようと、転校希望先の学校のウェイティングリストへ登録。転校希望先の学校に空きが出るまで、ストレスが少しでも減るようにと、元の学校へ通学させ続ける代わりにホームスクーリングを開始しました。
Rさんは「図書館を活用すれば学習資料に困ることもなかったし、地域のホームスクーリングのグループに登録すれば、みんなが情報や教材を共有してくれて、助け合って勉強することができたわ。もともと私自身が仕事に戻りたいという希望があったので、ホームスクーリングは期間限定にし、子どもが転校した後はホームスクーリングは止めてしまったけれど、子どもとしっかり向き合えて素晴らしい時間だった」と話してくれました。
Cさんのご家庭の場合
常々、キリスト教をベースにした教育をしたいというご両親の希望があり、息子さんは8歳くらいまではチャーチスクールへ通学。その後は彼自身のペースで学べるホームスクーリングへ変更しました。その後生まれた妹3人も就学はせずに、同じくホームスクーリングで学んでいるそうです。
Cさんは「クラスのレベルについていかなくてはいけない、という焦りやストレスがないのが良いですね。自分たちが納得したカリキュラムを選んで購入し、子どもたちのペースで学習できるので、息子や娘たちにとても合っている方法だと思います」とのことでした。
Sさんのご家庭の場合
しばらくはその学校に通って様子を見ていましたが、次女が小学校入学の際にもともと希望していた学校に入学を許可されたため、送り迎えのことなども考えて、長女の名前を次女の通う学校のウェイティングリストへ。その学校からの入学許可が下りるまでの間、ホームスクーリングをして過ごしたとのことでした。
Sさんは「次女が学校へ通っている間に、長女と自分でホームスクーリングをしたのは、本当に良い経験でした。次女が生まれて以来、なかなか長女とだけゆっくり向き合う時間が持てなかったので、2人だけのクオリティタイムを持つことができました」と振り返っていました。
Lさんのご家庭の場合
Lさんは「ホームスクーリングへ移行した効果はすぐに表れたわ。当時、彼女は精神科医に会わなくてはいけないほどだったけれど、今では精神科医に診察してもらう必要もなくなったの。就学時は、体調が優れず学校の課題が終わらなかったら、休みを削って勉強しなければいけなかったけれど、ホームスクーリングならば、もうその必要もないし。宿題が間に合わず怒られることもないわ。彼女は自分のペースで勉強することができるのよ」。
また、これからのことについて「今、娘も家族も本当に柔軟な生活を楽しんでいるわ。たくさんの国を旅行して、その文化や言語を学んでいるの。そのうちに、学校へ戻るかもしれないけれど、娘は今のところこの生活がとても気に入っているわ」。
Lさんご家族は、現在トルコに滞在中。今夏にはスコットランド、10月にはフランスとスペインへ長期旅行を計画中だそうです。素敵な時間を家族で過ごしていますね。
子どもの興味と才能を活かしたカリキュラム
イギリスには、「ナショナルカリキュラム」と呼ばれる、日本でいうところの学習指導要領にあたるものがあります。
これは学年別の目標学習到達レベルを示すカリキュラムですが、ホームスクーリングの場合、これに沿う必要がないので、各家庭で子どもの興味と必要性に合わせて、カリキュラムを組んで良いのです。
つまり学校のように、「右に倣え」と生徒が同じ時間割にそって、決められた時間に決められた教科を勉強するのではなく、子どもが興味のあること、才能があることを軸にさまざまな教科を取り入れることができます。
たとえば学習し始めた内容が地理だとして、その地域の人々の暮らしの内容を調べていくうちに、興味の方向がその地域の歴史に移行してもOKです。
学習中の内容を一つの教科として固定せず、むしろ関係がある一連の情報として教科を超えて深く掘り下げて学習することで、頭に入りやすく、楽しんで学習することができるのです。
時間割で決められた時間が来たからと、せわしく教科を変更する必要がないので、興味が続くならば、その内容をその日とことん究めることだってできます。天気が良い日なら、室内での勉強ではなく、屋外に出て学べる教科を選択することだって自由です。
「~しなければならない」という固定観念に縛られず、アイデア次第で学習効果が上がるホームスクーリング、魅力的だと思いませんか?
見えてきたメリットを家庭学習へ取り入れてみよう
たとえば、家庭学習では「子どもの興味があることを軸に、教科をまたいで関連がある情報として連鎖させて学習する」「子どものペースを尊重して、学習の内容や方法を親子で話し合う」ということ。
子どもとの関わり方としては「親子で過ごす時間の大切さを改めて認識する」「世間のみんなと一緒じゃなくて良いと、まずは親自身が大らかな気持ちを持つこと」です。
ときには、学校の成績を上げることが目標になってしまうこともある学生時代ですが、ホームスクーリングのように、一歩下がって広い視野で勉強することの意味を、親子で一緒に考えてみるのも良いかもしれませんね。