「寝る子は育つ」とは良く言ったもので、十分に睡眠を取れている子ほど成長ホルモンの分泌が促進されます。
子どもの脳と体の発達を促進する「成長ホルモン」の分泌量が増えるのは深い眠り(ノンレム睡眠)についている時です。
■成長ホルモンとは? |
脳下垂体前葉のGH分泌細胞 から分泌されるホルモンで、骨や筋肉の発達を促します。 また新陳代謝を正常に保ちます。 |
■成長ホルモンの役割 |
・脳の発達 ・骨と筋肉の成長 ・生殖器の成長 ・免疫系全般の機能促進 ・糖代謝を正常に保つ。(肥満の抑止) |
入眠後3時間くらいまでに熟睡状態になることで、成長ホルモンがたくさん分泌されます。
良く言われる睡眠のゴールデンタイム「午後10時~午前2時」はあくまでも目安。就寝後できるだけ早く、深い眠りにつくことが成長ホルモンの分泌を促します。
そのためにも幼児~小学校低学年であれば午後9時までに、小学校高学年でも午後10時までには就寝させたいところです。
適切な就寝時間を守ることと、十分な睡眠時間をとることが、身体・脳・精神の健全な成長につながります。
十分な睡眠が脳・体・心を育てる!睡眠の重要性
睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を約90分~120分の周期で繰り返します。
レム睡眠とノンレム睡眠は以下のような特徴が見られます。
ノンレム睡眠・・・レム睡眠よりも深い眠り。脳と自律神経は休息状態になります。
成長ホルモンが分泌されるのは、ぐっすり眠っている「ノンレム睡眠」の時です。成長ホルモンの分泌が多くなるのは、入眠後3時間の間のノンレム睡眠状態の時。
入眠後早めに「ノンレム睡眠」に入ることが、成長ホルモンの分泌を促します。
脳と体の発達を促進するために、早めに就寝させて、ノンレム睡眠を十分にとらせましょう。
一般的に一晩のレム睡眠とノンレム睡眠のサイクルは3~5回とされています。レム睡眠とノンレム睡眠を適切なサイクルでとることで、自律神経が整います。情緒安定のためにも、睡眠はたっぷりとらせたいですね。
幼児~小学生のベストな睡眠時間は何時間?
アメリカの睡眠科学、睡眠医学、疫学、生理学、小児科学、神経学などの各専門家のもと、National Sleep Foundation(アメリカ国立睡眠財団)が2015年に発表した「各年齢層における推奨睡眠時間,許容睡眠時間」によると、3~5歳では「10~13時間」、6~13歳では「9~11時間」の睡眠が理想的とされています。
成長ホルモンが多量に分泌される、「より深いノンレム睡眠」があるのは幼児期~思春期の時期のみ。幼児期~小学生の間は10時間程度の睡眠時間は確保したいものです。
以下の表は東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター、岡田(有竹)清夏氏の論文「乳幼児の睡眠と発達(2017年)」より、「0~13歳の推奨睡眠時間・許容睡眠時間・推奨できない睡眠時間」をまとめたものです。
短い睡眠時間も良くないですが、長すぎる睡眠時間もNG。睡眠サイクルと生活リズムを崩すので注意が必要です。
年齢(月齢) | 推奨睡眠時間 | 許容睡眠時間 | 推奨されない睡眠時間 |
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0カ月~3カ月 | 14時間~17時間 | 11時間~13時間 18時間~19時間 | 11時間未満 19時間超 |
4カ月~11カ月 | 12時間~15時間 | 10時間~11時間 16時間~18時間 | 10時間未満 18時間超 |
1歳~2歳 | 11時間~14時間 | 9時間~10時間 15時間~16時間 | 9時間未満 16時間超 |
3歳~5歳 | 10時間~13時間 | 8時間~9時間 14時間 | 8時間未満 14時間超 |
6歳~13歳 | 9時間~11時間 | 7時間~ 8時間 12時間 | 7時間未満 12時間超 |
8時間以下は要注意!睡眠不足の弊害
夕方以降の塾や習い事、スマートフォンやタブレット端末によるソーシャルメディアの利用、オンラインゲームなど、子どもが夜更かしする要因が多い日本。
寝る時間が遅い割に起床時間は諸外国とあまり変わらないので、睡眠不足になる子どもが多いです。
アメリカ、セントジョセフ大学の心理学教授、ミンデル博士らが2010年に行った「17カ国の乳幼児(0~3歳)の睡眠時間の調査」では、日本が最も短い睡眠時間となりました。
以下は一部の国を抜粋してまとめたものです。
総睡眠時間 | 夜間睡眠時間 | 昼間睡眠時間 | |
---|---|---|---|
日本 | 11.62時間 | 9.42時間 | 2.19時間 |
アメリカ | 12.93時間 | 9.74時間 | 3.18時間 |
中国 | 12.49時間 | 9.49時間 | 3.00時間 |
韓国 | 11.90時間 | 9.42時間 | 2.49時間 |
インド | 11.83時間 | 9.15時間 | 3.41時間 |
イギリス | 13.10時間 | 10.51時間 | 2.61時間 |
オーストラリア | 13.16時間 | 10.17時間 | 2.99時間 |
近年、睡眠不足が原因の「子どもの睡眠障害」も増えています。睡眠障害の一例は以下の通りです。
・過眠
・日中ボーっとしてしまう。
・身体・脳の発育不全
・睡眠時の異常行動、症状(夢遊病・夜驚症(夜中に突然、泣き叫ぶなどパニック状態になる)
・むずむず脚症候群(足がむずむずした感覚になり、落ち着かなくなる)など)
「子どもの脳力アップ」のために行っているはずの、勉強や習い事、「娯楽として楽しむ」ためのゲームで睡眠時間を削るのは本末転倒です。
特に小学生までの時期は、十分な睡眠が必要。勉強が終わらない場合も、夜遅くまでやることは避け、就寝時間を守りましょう。
子どもを速く寝かせるコツ
なかなか寝ない子どもに「早く寝なさい!」と叱ってしまうママパパは多いかと思います。怒鳴ったり、脅したりして無理に寝かせることは、親子共にストレスになりますよね。
決められた時間に就寝させるコツは、就寝前に「脳を興奮させない」ことです。
お風呂、勉強やゲームのタイミングと寝室の環境を考慮するだけで、かなり改善できるはずです。
特にスマートフォン、ゲーム機器の使用は注意が必要。就寝1時間前までにはやめておきましょう。光(ブルーライト)や音の刺激は、入眠効果のあるメラトニンというホルモンの分泌を抑えてしまいます。
子どもを早く寝かせる4つのコツ |
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1.お風呂はぬるめで就寝2時間前くらいに入る 熱いお風呂(42度以上)は「活動を司る」交感神経を活発にしてしまうので目が冴えてしまいます。 ぬるいお風呂(体温よりも少し高い37~40度)に入ることで、「リラックス状態に導く」副交感神経が優位になります。 就寝2時間前に体を程よく温めることで、就寝時間に「眠りに適した体温」になります。 |
2.テレビ、ゲーム、スマートフォンは就寝1時間前にはやめる 子どもの大好きなテレビ、ゲーム、スマートフォンは安眠の大敵。脳を興奮させ、覚醒状態にさせてしまいます。 強い光や音の刺激は、就寝1時間前にはストップさせましょう。 |
3.就寝2時間前までに食事はすます 寝る時に胃の中に食べ物がある状態ですと、寝つきが悪くなります。消化不良、肥満の原因にもなるので、寝る2時間前までに食事は終わらせておきましょう。 糖分の多い食べ物、飲み物も注意が必要です。血糖値が上昇するので交感神経を活発にしてしまいます。 |
4.寝室は暗くする 寝室は外の光が入らないようカーテンなどで遮光し暗くしておきます。人は暗い環境に身を置くと、脳の松果体からメラトニンの分泌が促進され眠くなるからです。 とは言え、幼児や小学校低学年の場合、暗い部屋は怖くて寝られない子も多いはず。直接、光が入らないようなルームランプ、常夜灯などで明るさをプラスしてあげましょう。 寝室の電気を消して、ドアを少しだけ開けて廊下の明かりを入れても良いでしょう。 可愛そうだからと言って、電気をつけたままで寝るのはおすすめしません。 |
朝日と外遊びで体内時計とホルモンを整える
睡眠サイクルが乱れている、早寝早起きが苦手なお子さまは「起床後、すぐに日光を浴びる」と改善することが多いです。
体内時計の周期はは約25時間。1日は24時間なのでズレが生じます。
さらに「遅く寝る、寝坊する」ことで睡眠サイクルも乱れていきます。
朝起きてすぐに日光を浴びることで、体内時計がリセットされます。また夜間のメラトニン分泌量もアップ!
外遊びも良質な睡眠をとるために効果的です。日光を浴びながら体を動かすことで、メラトニン分泌量アップと疲労感が重なり、すぐに眠れるはず。
起床後14~15時間で分泌されるメラトニン。日光浴で体内時計をリセットし、睡眠サイクルが整うことで、就寝時間に適切な量のメラトニンが分泌されるようになります。自然と眠くなるので、夜更かしもできなくなります。
就寝前のNG行為
■テレビ、ゲーム、スマホをする
メラトニンの分泌が抑制されて、寝つきが悪くなります。
特に寝ながらスマホは良くありません。
■心拍数を上げる運動をする
元気な子どもは寝る直前まで、ハイテンションなことも多いです。
兄弟で遊んでいるうちにヒートアップしてしまい、大暴れして叫んでしまうこともありますよね。
できれば就寝1時間前はのんびり過ごして、副交感神経を優位にさせましょう。夕食以降は、ブロックや読み聞かせなどの静かな遊びに、親が誘うと良いですね。
■親が小言を言う、叱る
「注意しておきたいこと、叱るべきこと」がある場合は、就寝1時間前までに伝えておきましょう。寝る直前に怒り、悲しみなどの負の感情で興奮させてしまうのは避けたいですね。夜間はネガティブな思考に陥りがち。就寝前は愛情を伝える、褒める言葉をかける方が、寝つきが良くなります。
■就寝直前まで勉強する
勉強も就寝1時間前には終わらせておきます。寝る前は脳をリラックス状態にしましょう。そのままスムーズに入眠することで学んだ学習内容の定着度もアップ!
テスト、受験前は勉強に熱が入り過ぎて就寝時間ギリギリまで勉強しがちなので注意が必要です。脳が興奮してしまうと、眠りが浅くなります。
単語や漢字、歴史上の人物名などの記憶をしっかり定着させるには、睡眠で脳をしっかり休ませることです。
子ども部屋にテレビを置かない
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター、岡田(有竹)清夏氏の論文「乳幼児の睡眠と発達(2017年)」 によると、子ども部屋にテレビがあることで、睡眠時間の短縮が見られているとのことです。
寝室にテレビがある児 の割合は,1 ~ 2 歳で 17%,3 ~ 5 歳で 30% であ り,寝室にテレビがある子どもは寝室にテレビが ない子どもに比較して約 20 ~ 30 分睡眠時間が 短縮していることも報告されている(Sadeh et al., 2009)。
引用元:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/60/3/60_216/_pdf
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター、岡田(有竹)清夏氏の論文「乳幼児の睡眠と発達」、2017年、P225
寝る前や、起床後のテレビ視聴は睡眠サイクルと生活リズムを乱します。
自室にこもる習慣を防ぐためにも、子ども部屋にはテレビは置かない方が良さそうです。
睡眠を活用して学習効果を高める
小学生までは9時間以上の睡眠を心がけたいですね。「その日勉強した学習内容」を脳にインプットさせるコツは十分な睡眠をとること。
レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す中で、学校・塾・家庭学習・習い事(運動・芸術・スポーツなど)で学んだ内容が脳に定着します。勉強に限らず、身体的な動きも睡眠によって習得されます。
寝る間を惜しんで勉強する、練習することは逆効果。家庭学習が予定通り進まない場合も、いつもの就寝時間を守った方が学習効率は良さそうです。
脳を活性化する昼寝時間とは?
昼寝なしで過ごせるようになるのは、3~4歳くらいからです。もちろん体力には個人差があるので5歳、6歳で昼寝をしていても問題はありません。小学校低学年でも学校の授業内容によっては、昼寝をすることはあるかもしれません。
カリフォルニア大学の睡眠研究者サラメドニック氏によると、60~90分の昼寝は、夜間の睡眠と同様に「学んだことを定着させる効果」があるとのこと。
ただし長時間の睡眠は、生活リズムも狂ってしまいます。保育園、幼稚園、小学校からの帰宅後、どうしても眠いようであれば60分以内の短い昼寝をさせてあげましょう。
ドイツ、デュッセルドルフ大学のオラフ・ラール博士の実験では、何と6分間の短い睡眠でも記憶力定着度がアップしました。学生たちに単語を覚えさせた後、6分間の昼寝を挟んでテストを行った結果、高い学習効果が見られたのです。
昼寝のタイミングがずれそうな時は早めに就寝
保育園、幼稚園、学校の活動内容や習い事によっては、夕方以降に眠くなることもあります。疲れて機嫌が悪い子どもを見ていると、可愛そうになりますが、できるだけ寝かさないように頑張りましょう。
16時以降に寝てしまうと、夜に眠れなくなります。夜間熟睡できないことは、成長ホルモン分泌に悪影響を及ぼすので「遅い昼寝」は避けたいですね。
ママパパは大変ですが、眠がっていてもお風呂や夕飯を済ませるようにします。
そうこうしているうちに19時は過ぎているはずです。
その間に目が覚めてくることも多いですし、まだ眠気が続くようであれば早い時間でも寝かせてしまいましょう。昼寝をさせて就寝時刻が遅くなるよりも、昼寝なしで早い時間に寝かせた方が生活リズムも乱れません。
親ができる睡眠環境の整備
小学生までの子どもの生活リズム、睡眠サイクルは親がサポートすることで変えられます。
親の就寝時間が早い家庭は子どもの就寝時間もおのずと早くなります。子どもの早寝早起きの習慣づけは、ママパパの生活リズムを整えることから始まります。
子どもに「早く寝なさい!」と言いながら、親が深夜までテレビ、スマートフォンなどを見ている家庭も多いです。
大人も睡眠中に成長ホルモンが分泌されます。ママパパもできるだけ早く就寝できるように心がけたいですね。7時間以上の睡眠で、成長ホルモンをたっぷり分泌することが、疲労回復&アンチエイジングの秘訣です。
親ができる4つの睡眠環境の整備 |
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1.親の就寝時間を早くする 親が遅くまで起きてテレビなどを観ていると、子どもも「起きていたい!」と思ってしまいます。また寝室にテレビ、ゲームなどの音が聞こえてくると、安眠を妨げます。 |
2.就寝1時間前から読み聞かせをする、または子どもの話を聞く 大好きなママパパの声が、精神を安定させるホルモン「セロトニン」の分泌を促します。 小学校以降は、子どもの話をじっくり聞いてあげるのも良いですね。あれこれ批判せず、静かに聞きます。 |
3.就寝時の声がけ、スキンシップ 「おやすみなさい。言い夢見てね。」 「今日も良く頑張ったね。」 などの一声を就寝前にかけるだけで子どもの情緒は安定して、眠りにつきやすくなります。 幼児、小学校低学年であれば「抱っこ」をして愛情を伝えましょう。子どもとのスキンシップでママパパもセロトニンの分泌が活発になります。 |
4.寝室周辺の騒音対策 仕事や勉強で家族が深夜まで起きている場合は、子どもの寝室に光や音が入らないように注意します。ヘッドフォンを使用する、寝室から離れた部屋で作業するなどします。 |
勉強スケジュールは十分な睡眠時間を入れて
塾の宿題、通信教育、市販のドリルなどを、「家庭学習」として取り組ませているご家庭は多いかと思います。
塾、習い事、家庭学習、友達との遊び・・・忙しい子どもの1日。小学校になると、宿題も出るので「家庭学習」の時間をとるのが難しくなることも。
親としては毎日、決められた学習量をこなして欲しいですが、日中のスケジュール、子どもの体調によっては「ノルマ達成」ができないこともあります。
そんな日こそ、いつもの就寝時間通りに寝かせてあげましょう。1日の学習スケジュールに固執して睡眠サイクルを乱すことは得策ではありません。
勉強スケジュールは、睡眠時間を確保した上で立てましょう。就寝時間が遅くなるような学習量であれば、場合によっては減らすことも必要です。
参考資料
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-007.html 「厚生労働省 e-ヘルスネット 子どもの睡眠」
https://www.city.hadano.kanagawa.jp/www/contents/1001000002767/simple/02suimin1-1.pdf 「秦野市 子育て若者相談課 子どもの睡眠~成長ホルモンが作用~」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/08060902/003.pdf「文部科学省 生活リズムの確立と睡眠」
岡田(有竹)清夏、「乳幼児の睡眠と発達」、東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター、2017年
https://showa-sleep.jp/child_page/ 昭和大学付属東病院睡眠医療センター「子どもの睡眠障害」