2017年10月18日 公開

『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』って本当?

『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』というロバート・フルガムのロングセラーをご存知でしょうか。世界中で大ブームを引き起こし、数千万の読者がなるほど、と頷いたこのエッセイ集から読み解いたこと、そして『<砂場>と子ども』に学ぶ、砂遊びと幼児期の教えの重要性や砂場で得られる親子の学びまでお伝えします。

『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』というロバート・フルガムのロングセラーをご存知でしょうか。世界中で大ブームを引き起こし、数千万の読者がなるほど、と頷いたこのエッセイ集から読み解いたこと、そして『<砂場>と子ども』に学ぶ、砂遊びと幼児期の教えの重要性や砂場で得られる親子の学びまでお伝えします。

実は苦手!という親も多い砂遊び……

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さて、多くの子どもが大好きな公園の砂場での砂遊び。でも、実はあまりさせたくない……という親の声をよく聞きます。

理由は「砂だらけになって洗濯が大変だから」「一度遊びはじめたら砂場から動かなくなるから」「砂遊びの道具を取り合って他の子とすぐケンカになるから」「下の子もいるので、砂を口に入れるなどして大変」「衛生状態が不安」「親同士の交流が面倒」などさまざま。

砂遊びが大好きな3歳児を持つ筆者も、その気持ちはよくわかります。そして、砂場で夢中で遊ぶ子ども達の背中を見つつ、ため息をつきながらこんな会話をママ友としました。

「あーまたあちこち砂だらけ。でも砂遊びって知育にいいんでしょ」
「必要なことは全部砂場で学べるっていうよね?」
「そういえばそんな本があったような…」

そんな経緯で、記憶の隅っこにあった、該当するこちらの本を検索。早速読んでみることに。

『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』

Amazon | 人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ (河出文庫) | ロバート・フルガム, 池央耿 通販 (66850)

タイトル:人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ
著者:ロバート・フルガム(著)、池央耿(訳)
出版社:河出書房新社
30年前近くから読み継がれている本なので、タイトルに聞き覚えがある人も多いのではないでしょうか。

原題は”All I really need to know I learned in Kindergarten”。アメリカで1988年に発行され、日本語版が登場したのは1990年の本です。世界中で翻訳され、103カ国で累計700万部(2004年当時)のベストセラーになりました。

当初は、牧師であるロバート・フルガムがシアトルの小学校の卒業式で口にしたメッセージが発端で口伝てに広まったことが本の出版のきっかけにつながります。家庭の冷蔵庫や掲示板に貼ることが流行し、"フルガム現象"と呼ばれたほどです。

その後、登場人物や自分の考えがどうなったかなどが、著者によって付け加えられた増補改訂版が『新・人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』。今回ご紹介するのはそれを「決定版」として改題し、2016年3月に発売された文庫本です。初版を読んだ人にも再読をする価値が充分にある本です。

面白いことに、この本のタイトルを口にするだけで、多くの人が、大きく頷き、わかったような顔をします。たった一文だけで人を惹きつけ、納得させる力があることにまず感銘を受けました。

砂遊びが重要なの?

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では、この本には「砂遊びの効果」が書かれているのでしょうか。厳密にいうと答えはNOです。
人間、どう生きるか、どのようにふるまい、どんな気持で日々を送ればいいか、本当に知っていなくてはならないことを、わたしは全部残らず幼稚園で教わった。人生の知恵は大学院という山のてっぺんにあるのではなく、日曜学校の砂場に埋まっていたのである。
via 『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ 決定版』24ページ
実は、この本はエッセイ集。タイトルにある内容が触れられているのはわずかなページ数で、軸になる重要なメッセージはほぼ2ページに凝縮されています。

作者は、若い頃からの習慣で、毎年春ごとに自分の生活信条を<クレド>としてまとめているそうです。最初はとても長いものだったのが、年々短く簡潔になっていったそう。

そのうち、充実した人生を送るために必要なことは、すでに大体知っていて、しかも難しいことではないと気づきます。そして、それは全部、幼稚園ですでに教わっていたのではないかということに思い当たるのです。

例えば「なんでも皆で共有し、ずるをせず、人を叩かず、使ったものは片付け、人のものは使わないこと、誰かを傷つけたら謝ること」。幼少期に子どもが教えられることですね。でもこれは、大人になっても人間関係の基本。それなのに意外と守れてない人が多いのですが、初心に返って、このルールさえ守れば、平等な社会の実現にもつながります。

また、「少しずついろんなことをして釣り合いの取れた生活をする」ことは、幼少期によく気を配られることですが、実は大人になっても、心身ともに健全な生活を送る上では大事なことです。

充実した人生を送るためには、幼児期に教えられたことがカギ。今一度、それを思い出して、生涯大切にすべき知恵として心に留めておこう、というのが、多くの人に指示された考え方なのです。

この「何でもみんなで分け合うこと」から始まる文章はリズムや構成も素晴らしく、簡潔でわかりやすいのもポイントです。邦訳も素敵ですが、原文も”Share everything”など、子どもにもわかりやすい英語なので、原文も目を通し、子どもに教えてみるのも良さそうですね。

この本から親として学べたこと

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Cozy nook / Shutterstock.com
つまり、この本を読んでも、砂遊びの知育効果とか、幼稚園ならではの重要性がわかるわけではない(保育園でもどこでも大丈夫)のですが、親としての学びはたくさんあります。

まず、幼い子どもがたくさん遊んでいる砂場や公園は、ついつい他の子とのトラブルになるのを避けがちですが、「何でもみんなで分け合うこと」「人をぶたないこと」「人のものに手を出さないこと」「誰かを傷つけたら、ごめんなさいと言うこと」などを教え、子どもが身をもって学べる絶好の場だということです。

また、それぞれ、その場をおさめるための場当たり的な対応や考えではなく、生涯を通じて子どもの助ける知恵となるか、どうかで判断する、という視点を持てました。

そして、砂場だけではなく、幼少期に教えなければならない、基本的な事柄の重要性を新たに意識できました。

砂遊びのメリットを知りたいなら……『<砂場>と子ども』

「砂場」と子ども | 笠間 浩幸 |本 | 通販 | Amazon (66879)

タイトル:「砂場」と子ども
著者:笠間浩幸
出版社:東洋館出版社
社会性を学ぶ以外の砂遊び、砂場での学びは他にどんなものがあるのでしょうか。それを具体的に知りたいなら、砂場の歴史や子どもの成長・発達の関わりを長年研究し、論文も多数書かれている同志社女子大学の笠間浩幸先生の著作『<砂場>と子ども』がオススメです。

砂遊びは、自由な発想で遊びを発展させやすく、成長や学びの要素が盛りだくさん。どうしたら望む形が作れるかなどを自分で考え、試行錯誤や実験をしやすく、発見や気づきの機会が豊富です。科学的思考力や想像力を育て、感性や運動能力も伸ばせます。

手や体の感覚を刺激し、身近なものを使った道具遊びも容易。簡単に形が変えられるから創造性も発揮しやすく、ごっこ遊びやゲームにも最適。実にさまざまな発達を促してくれるのです。

砂で汚れるのが大変……という理由だけで砂場を避けるには、あまりにももったいない学びの宝庫なのです。

ちなみに、こちらの本の中にも『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』の有名なメッセージは抜粋されて、登場します。

砂遊びを親ももっと楽しむには

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砂で汚れるのが嫌だ、という場合は、お砂場着やプレイウェアと呼ばれるカバー着を用意するのも手です。また、社会性を学ぶのにはあまり役立たないかもしれないですが、砂浜や庭、家の中でも砂遊びは可能です。

また、『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』で述べられているように、砂場で学べることは、大人になっても大切にするべきこと。つまり、親も子どもと一緒に学び直しができる良い機会でもあるのですね。そう思えば、砂場へ向かう気持ちも少しは晴れやかになるのではないでしょうか。

ちなみに『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』の中には”お父さん大好き””クレヨンと想像力”など珠玉のエッセイがたくさん詰まっています。砂場でひとり遊びに熱中する子どもの邪魔をしたくない時などに持参して、少しずつ読み進めるのもオススメですよ。

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

志田実恵
志田実恵

エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらメキシコ・バスクの料理本の編集のほか、食、世界の子育てなどをテーマにwebを中心に活動中です。