2018年9月12日 公開

エリクソンの【ライフサイクル論】とは?8つの発達段階・課題を解説

モンテッソーリ、シュナイターなどの教育理論や知育おもちゃは、日本でもよく知られています。では【エリクソンのライフサイクル論】は、耳にしたことありますか?幼稚教育理論で重要な、発達心理学者エリクソンの【ライフサイクル論】についてご紹介します。

発達心理学者エリクソンとは?

BlurryMe / Shutterstock.com

エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson)は、1902年にドイツで生まれた精神分析家です。第二次世界大戦中にアメリカに亡命し、同国内で研究を重ねて米国で最も影響力のある精神分析家の一人となりました。

特に、アイデンティティ(自我)の概念や発達心理学において、精神分析学者として有名なフロイトの理論を発展させたとしてよく知られています。

日本でも、エリクソンは保育士や学校の先生なら知らない人はいないくらい、保育士試験や教員採用試験にも頻出する、とても有名な人物です。また、文部科学省による学習指導要領は、子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題を「乳幼児期」「学童期」「青年前期(中学校)」「青年中期(高等学校)」の4段階に分けて挙げているのですが、実はこれもエリクソンの発達理論を元に作成されているのだそうです。

ユダヤ人の母のもと、実父不明の状態で育つ

エリクソンはユダヤ系デンマーク人の母の元に生まれました。父親は不明です。母親はのちに小児科医と結婚し、彼を実の父親だと少年エリクソンに話したそうですが、エリクソンは信じられなかったといいます。

実の父親譲りの青い目をした風貌を持ち、ユダヤ社会では異端者扱いされ、ドイツ人社会からはユダヤ人であることで差別されたエリクソン。その経験は、精神分析家としての思想や研究に影響したと考えられます。

エリクソンの「ライフサイクル論」とは?

Monkey Business Images / Shutterstock.com

みなさんご自身の精神はどのようにして発達したと思いますか?

教育、環境、他者との関わり、社会規範によって……などなど、いろいろな回答があるかと思います。

エリクソンは人間の一生を「ライフサイクル」と捉え、精神発達の過程を8つの段階に分けるとともに、各段階にある課題を克服することで精神的発達を遂げるとして理論化しました。

心理学のみならず教育においても影響をあたえているエリクソンの生涯発達理論は、一般的に【ライフサイクル論(心理社会的発達理論)】と呼ばれます。

8つの発達段階と発達課題

エリクソンによれば、人間の成長は下記の8段階に分けて考えられます。

1:乳児期
2:幼児期
3:遊戯期
4:学童期
5:思春期・青年期
6:成人期
7:壮年期
8:老年期

ライフサイクル論では、各段階において、プラスの力(発達課題)とネガティブな力(危機)が対(vs)になっており、その両方の関係性が人として発達していくのに大きく影響するとされています。なので、プラスの面だけ習得する、ネガティブな面だけ習得するということではありません。また、ネガティブな力を克服することでプラスの力にもなり得るし、プラスの力は各段階以降に取得することも可能だとエリクソンは説いています。

発達課題は、かみ砕いて言えば各段階で乗り越えるべきテーマといえるでしょう。特に乳児期から思春期・青年期までの発達段階には、保護者の適切なサポートも重要です。それぞれの発達段階について、目安となる年齢とともに詳しく見ていきましょう。

発達段階1:乳児期【0~1歳6カ月ごろ】

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乳児期は0歳~1歳6カ月頃を指します。まだ自分では何もできず、あらゆる行為をするために他者の力が必要な赤ちゃんの頃ですね。乳児期の子どもは、パパママなどから受ける愛情を通じて成長します。

この時期の発達課題は「基本的信頼 対 不信」です。

「基本的信頼」は、おむつを替えてもらったり、おっぱいやミルクをもらったり、世話をされることで他者から受ける信頼と、その信頼を受けて自分に対して抱く信頼感を意味します。

逆にこの時期に信頼感が欠如すると不信感へと繋がり、将来のアイデンティティ形成へ影響があるとされます。

発達段階2:幼児期(早期幼児期)【1歳6カ月~4歳ごろ】

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幼児期は1歳6カ月~4歳頃を指します。

この時期の子どもは、身体・運動能力もさらに発達し、自由に歩けるようになるなど、自分の意思で動けるようになります。

さらに、言語能力の発達に伴い、自分の意思や欲求を他者に伝えられるようになります。一方で、しつけなどを通じてルールを学んで社会性を身に付けていく時期でもあります。

発達課題は「自律性 対 恥」です。

他者との生活において自分をコントロールすることができるようになること、すなわち「自律性」を身に付けていく一方、できないことを「恥」ととらえて自信をなくしてしまう可能性もあります。

トイレトレーニングを例えにするとわかりやすいのですが、自分でおしっこ・うんちをすることをコントロールできるようになり、自律性を習得します。

しかしうまくできない場合、それを恥ずかしいと思い、さらにはできないことを他者に知られたくないという羞恥の思いが芽生えます。

この段階でも、自分を肯定的に捉え、自律性というプラス面が、「恥・羞恥」というネガティブ面を上回ることが重要とされています。

発達段階3:遊戯期(幼児後期/児童期)【4~6歳ごろ】

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遊戯期は4~6歳頃を指し、遊戯という名の通り、おままごとなど、子ども自ら自主的に遊ぶことが多い時期。集団生活の中で自分の社会的役割を見出し、規範やルールに従い、まわりに合わせて行動できるようになります。

発達課題は「積極性 対 罪悪感」です。

あらゆることに挑戦する積極性(自主性)が高まる一方で、自分の行動が失敗すれば、周囲から怒られたりしてしまうかもしれないという疑惑や恐れ(罪悪感)を持つようになります。

この時期には、罪悪感や不安感というネガティブ面ばかりを抱えずに、自発的に行動できるようプラス面が上回るようにすることが大切です。

発達段階4:学童期【5~12歳ごろ】

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5~12歳、おおまかにいえば小学校時代がこの学童期に当たります。この時期の発達課題は「勤勉さ 対 劣等感」。この頃の過ごし方が、社会に出てからの勤勉な生き方の基盤を作ります。また、この頃に「自分はできない」という劣等感を抱いてしまうと、その後の人生にマイナスの影響を与えます。

幼稚園までと違い、小学校に入ると勉強の授業や宿題に取り組むことになりますが、学校で与えられた課題をきちんとこなしていくことが自信につながります。周りの大人にはそれをサポートするため、一方的に叱るのではなく、できたらほめる・適切なアドバイスをするなどの対応が求められます。また、勉強だけでなく同年代の仲間と道具や知識、体験を共有することが、将来の社会的な行動の基礎となります。自分とは違うタイプのたくさんの友だちと関わることで、集団や社会のルールを守るという勤勉性が身についていきます。

発達段階5:青年期【12~18歳ごろ】

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12~18歳頃の青年期に分類されます。日本では中学生、高校生にあたる、思春期の頃ですね。この頃の発達課題は「アイデンティティ 対 アイデンティティの混乱」です。

アイデンティティ(identity)とは、エリクソンの造語で、日本語で自己同一性(自我同一性)ともいわれます。シンプルに言えば、自分とはどういう人間であるかを知ること。自分が他人にどう見られているかということに関心を持つとともに、自分自身を客観的に見つめ、自分の価値や能力とともに短所も認識していきます。それまでは将来の夢が「プリンセス」や「サッカー選手」だったのが、より具体的になるのもこの頃です。

青年期は大人になるまでの猶予期間として社会的責任が免除された中、自己の生きがいを求めることが許されます。一方、アイデンティティを確立できず、自己嫌悪感と無力感を持ち、自らの人生において責任のある主観的選択ができなくなる状態がアイデンティティの混乱(拡散)です。現代では、青年期にアイデンティティを確立できず、社会的責任の猶予期間を引き延ばす「モラトリアム人間」が増えているともいわれます。

アイデンティティを確立するために必要なのは、価値観を共有できる親密な友人や尊敬する師の存在。親との会話はそれまでよりも減少しますが、気持ちはつながっていますので、温かく見守ることが大切です。

発達段階6:初期成人期【18~40歳ごろ】

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少し広いですが、18~40歳頃が初期成人期。エリクソンによると、この時期の発達課題は「親密性 対 孤立」です。

就職し、社会に価値を生み出すようになったとき、その生産性を高めるのが他の人との親密な関係です。職場の同僚や仕事仲間に恵まれ、彼らと信頼し合ういい人間関係を築くことで、本当に満足のいく仕事を達成することができます。また、プライベートで異性と出会い、結婚して家庭を持ち、子育てをすることも親密性に当たります。どんなに優れたアーティストでも、作品を受け取る相手もいない、社会的に完全に孤立した状態では、いい作品は生み出せません。他者と親密な関係を持つことで心が安定し、より社会に貢献できるようになります。

発達段階7:壮年期【40~65歳ごろ】

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壮年期の発達課題は「世代性 対 停滞性」です。前の世代から学んだことを継承し、さらに自分たちが生み出したものを次の世代の人たちに譲り渡す。エリクソンはこれをジェネラティビティと呼びました。子どもを育てることや職場で後進の育成をすることに力を注ぎ、次の世代がよりよく生きられるように貢献する時期です。そして世代のつながりの中で倫理も生み直され、継承されていきます。

せっかく業績を積み上げてきても、それを次世代に一切伝えようとしない状態が「停滞性」です。

発達段階8:老年期【65歳以上】

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人生の締めくくりといえる老年期の発達課題は「自己統合 対 絶望」です。それまでの人生を振り返り、満足ができると、豊かに、幸福に人生を終えていくことができます(統合性)。一方で、後悔の多い人生であった場合、死への絶望感に苛まれてしまうかもしれません。

エリクソンは、それぞれの発達課題を順番に達成したとき、初めて健康に次の段階に進めると提唱しています。成長段階で何か心の問題が生じた場合、それ以前に達成できなかった発達課題が潜んでいることが多いのです。そのときはそこに立ち戻り、やり直す必要があるといいます。

エリクソンのライフサイクル論をもっと知りたい方におすすめの本


タイトル:あなたは人生に感謝ができますか? エリクソンの心理学に教えられた「幸せな生き方の道すじ」
著者  :佐々木 正美
出版社 :講談社

ベストセラー「こころのまなざし」をはじめ、数々の育児書を執筆されている児童精神科医の佐々木正美先生の著書。

エリクソンのライフサイクル論が、育児に活かせるようわかりやすく解説されているので、もっと知りたいという方へオススメの1冊です。

筆者自身、ライフサイクル論を知ったことで、子どもの発育に関して葛藤することが減り、客観的な視点で見られるようになりました。

みなさんも、エリクソンのライフサイクル論を学んで、ぜひ育児に役立ててみてくださいね。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

早野沙織 早野沙織  在仏3年目、フランス人旦那と二児(2歳と0歳男児)とアルプス地方グルノーブル市在住のママライター。慶応義塾大学法学部卒業。現地から日本ではあまり知られていないフランスの地方・育児事情をお届けします!