2019年06月25日 公開

宿題・担任・期末テストも廃止!話題の麹町中の工藤勇一校長の本

公立名門として知られる千代田区立麹町中学校。宿題、固定担任制、中間・期末テストも廃止するなど大胆な教育改革を進めていることでも有名です。連載「話題の育児書」6回目は、この麹町中の工藤雄一校長先生の初の著書『学校の「当たり前」をやめた。』をご紹介します。

公立名門として知られる千代田区立麹町中学校。宿題、固定担任制、中間・期末テストも廃止するなど大胆な教育改革を進めていることでも有名です。連載「話題の育児書」6回目は、この麹町中の工藤雄一校長先生の初の著書『学校の「当たり前」をやめた。』をご紹介します。

メディアで注目を浴びる公立中学校の改革を知りたい

 (140655)

tera.ken / Shutterstock.com

宿題、1学級1人担任制、中間・期末などの定期テストを廃止。服装や頭髪の指導は行わず、学校祭や運動会、修学旅行などの学校行事は生徒が主体的に運営。こんな大胆な教育改革を進めている千代田区立麹町中学校は、さまざまなメディアに取り上げられている話題の公立中学校です。

一体、どんな風に改革を進めているのでしょうか?現職校長先生、工藤雄一さんの初の著書からその改革内容や理由、親としての学びを探ってみました。

『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』

タイトル:学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革
著者:工藤勇一
出版社:時事通信社

大胆で革新的な教育改革を進めていることから、「民間出身ですか?」と聞かれることも多いという工藤勇一校長先生。ですが、生まれ育った山形県で公立中の数学教員を務めたのち、教採を受け直して東京の公立中の教員に、そして教育委員会を経て就任と一貫して公教育に関わって来られた方です。

一方、麹町中は少し特殊な環境の学校です。2017年に創立70周年を迎えた歴史ある学校で、皇居に近く、学区内に国会議事堂や最高裁判所、首相官邸もあります。

かつては越境入学者が半数を占め、「番長小→麹町中→日比谷高校→東大」という国公立エリートコースにも数えられていたとか。今は、千代田区域外入学はできず、各学年4クラスに特別支援学級2クラスを加えた14クラス、生徒数427人という規模の中学校です(2019年5月1日現在)。

卒業生も著名人が多く、リニューアルされて施設や設備も整っています。名門の私立中高一貫校に合格したのに、そちらではなくこの麹町中に通う選択をしたお子さんもいるようですね。

優秀で素晴らしい校長先生が、もともとエリートが揃う学校を変革したのだから参考にすることはないのでは、という印象を受けられる方もいるかもしれません。実は私もそういう疑いを持ちながら、この本を手にしました。しかし、読後は、良い方向に裏切られました。

著者:工藤勇一さん
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年より東京都千代田区立麹町中学校長。教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究会委員等、公職を歴任。

「当たり前」を見直すことの大切さ

 (140656)

violetblue / Shutterstock.com

学校教育で、なぜか「当たり前」になっていることを何も考えずにこなすことを続けると、自分の頭で考えることができず、何でも人のせいにする大人になってしまうのではないか、というのが工藤先生の指摘です。

学校は、子ども達が社会の中でよりよく生きていけるようにするためにあるのだと、まずはそこを明確にしています。

そして、教職員と一緒に課題をリストアップし、手段が目的化されているものを見直し、最適な手段を再構築に当たっているのです。

私たちは、自分が受けてきた教育しか知らないので、理不尽なルールもそれが当たり前だと思い込みやすいのかもしれません。まずは、自分の中の「当たり前」を見直していくこと。

ただこなすだけの「宿題」、お飾りの「目標」など、本来の目的に照らし合わせて変える必要があるものを見直すことが大事なのです。麹町中でも、学力を定着させる手段であるはずの宿題や定期試験が逆効果であったので撤廃。代わりに、単元が終わるごとに小テストを実施し、合格点に達しない生徒は再チャレンジすることで全体的な学力が向上しています。

この本はビジネス書としても参考になると評判ですが、工藤先生の歩みや教えは、家庭の中の仕組みやルールでも大変参考になる考え方や取り組みだと思います。

保護者も、学校を変えられる!?

 (140657)

kawamura_lucy / Shutterstock.com

工藤先生が東京で最初に赴任した中学校は、荒れた学校もあったようです。そこでは教師も生徒も保護者も、皆、現状を誰かのせいにしていたとか。

まず、それぞれが当事者意識を持つこと、理不尽だ、おかしいと思ったことは声をあげていく、動いていくこと。

麹町中でも、保護者は保護者会や面談には自転車で来校できない「謎の伝統」があり、それは保護者の声がきっかけで撤廃されたとか。それまで誰も言わなかった、声をあげなかっただけでいつどんな理由でできたかもわからない謎ルールがたくさんあるのかもしれません。

誰も得しないのにそれが当たり前だから、と教師も親も子も苦しんでいるたくさんの慣例。まずは保護者も、諦めずに声を上げ、変える方法を模索する必要がある気がします。

保護者目線での学びを深めたい場合は『「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(多田慎介著、ウェッジ)もオススメです。

教育者でなくとも学びがある本

 (140658)

taka1022 / Shutterstock.com

さまざまな改革事例は、読むだけでもワクワクして面白いですが、生徒が自ら手帳でスケジュール管理を行うやり方や、フレームワークのノートの取り方は、家庭でも取り入れられそうな方法です。

また、家庭内での子どもへの接し方や育児で役に立ちそうな対応もあります。

そして、麹町中での改革を「あの学校だから、あの校長先生だからできる」先進的な例外だからと諦めてしまうのではなく「どのような条件を整えれば変えられるのか」と考えることこそが、この本を読んで学べることだと思います。

そして、変えた方がいい課題がたくさんあるのは、中学校に限りません。家庭内の家事・育児分担やルールから、保育園や幼稚園、小学校などでも「当たり前」を見直して、変えるとハッピーになれることはたくさんありそうですね。

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

志田実恵
志田実恵

エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらメキシコ・バスクの料理本の編集のほか、食、世界の子育てなどをテーマにwebを中心に活動中です。