日本では乳歯が抜けると「上の歯なら縁の下に、下の歯なら屋根に投げる」という習慣がありましたね。筆者が子どものときもそうした記憶があります。ここスペインでは、抜けた乳歯は毎回もれなくコインかプレゼントに変わります。それはなぜなのでしょうか……?
抜けた乳歯は枕の下に入れて眠る
字が書ける子どもは、「親愛なるねずみのペレスへ……」と歯に手紙を添えることもあり、またペレスがコインかプレゼントと一緒に手紙を置いていくこともあります。
スペインの子どもたちにとっては、歯が抜け替わる不安より、プレゼントをもらえる楽しみが勝って嬉しい楽しみになるようです。
8歳の国王のために書かれたねずみのペレスのお話
当時のスペイン国王は、まだお腹の中にいる時に父王を亡くし、生まれた時から王座についていたアルフォンソ13世でした。王が8歳になる頃、イエズス会の神父だったルイス・コロマに「王の乳歯が抜けたので、何かよい物語を書いてほしい」と王宮の側近から依頼があったそうです。そこで、アルフォンソ13世こと、ブビー王を主人公にして書いたのが「ねずみのペレス」のお話でした。
ブビーというのは、摂政をつとめていた母親のマリア・クリスティーナ王太后が息子アルフォンソ13世を呼ぶときの愛称だったそうです。
それでは、そのお話の内容をお伝えします。
ねずみのペレスと小さな王様のひと晩の冒険
ある夜、ブビー王は抜けた乳歯を枕の下に置いて眠りにつきますが、夜中に目が覚め、ペレスに出会います。ペレスから王宮の外の楽しい話を聞いてすっかり魅了されたブビー王が、魔法でねずみの姿に変えてもらい、ペレスと一緒にひと晩の冒険を楽しむことに。そして、ペレスの家に遊びに行ったり、猫のドン・ペドロにビクビクしたり……。
翌朝目が覚めると、元の世界に戻っていたブビー王は、世には貧しい子どもがいることの理由を母親に問いかけます。そこで「世界の子どもはみんなきょうだい」であることをよく考え、「王であるあなたがみんなを幸せにしてあげないといけませんね」と諭されるのでした。
その後、ブビーはとてもいい王様になりました……めでたしめでたし。
ということで、さすがは神父様が書かれただけある、よいお話に仕上がっていますね。
子どもたちに大人気の「ねずみのペレス」博物館
スペインで、このお話がどれだけ人気があるのかがうかがえますね。実は映画にもなったほか、各地の劇場でもたびたび人形劇やお芝居が上演されています。
日本語版「ねずみとおうさま」はロングセラー絵本
著者:コロマ神父(文)土方 重巳(絵)石井 桃子(訳)
出版社:岩波書店
ワクワクするストーリーと、心温まるお話なので、乳歯が生え替わる年頃のお子さまがいる方は「スペインという国ではこういう習慣があって、こういうお話があるのよ」と説明しながら一緒に読んでみてはいかがでしょうか。もしかすると、スペインの子どもたちのように、歯の抜け替わる不安を取り除く助けになるかもしれません。
歯が生え替わるのは、誰もが通る道ですが、不安なくその時期を過ごせるような工夫をしてあげたいものですね。