2017年12月20日 公開

【第7回】多変数と「関数の考え」の一歩:「○○すれば○○になる」!

算数を苦手にしない!小学校に上がる前から、数学的な思考力を育てるため、親子で楽しく取り組めるアイディアやポイントを伝える連載の7回目。今回は増える、減る、変わるなどの動きを通して、生活にある物事はすべて変化していることに着目。「関数の考え」や多変数へ理解の一歩を踏み出します。

算数を苦手にしない!小学校に上がる前から、数学的な思考力を育てるため、親子で楽しく取り組めるアイディアやポイントを伝える連載の7回目。今回は増える、減る、変わるなどの動きを通して、生活にある物事はすべて変化していることに着目。「関数の考え」や多変数へ理解の一歩を踏み出します。

6歳までに身につける!数学的思考力【全8回連載】

小中学校で、算数や数学に苦手意識を持たせないために。もっと算数の根本的な考え方を理解して、未就学児のうちに数学的思考力をつけさせるのが狙いの連載です。周囲の大人が注目するべき、子どもの動きとそのフィードバック方法、その後のアプローチの仕方を毎回3ステップでお伝えしています。

子どもが自ら、【同じ】を発見し、その【理由】探しができるようにしています。

この連載も、いよいよ今回で7回目。ちょっと数学的な用語が多すぎる、という声も聞きました。が、もっと日常会話に数学的な用語を使う機会が増えてもいいのではないでしょうか。あえて数学用語を意識して使うことで、教養を高める機会にもなればと思っています。

今回は多変数と「関数の考え」がテーマです。

シリーズ第7回: 「関数の考え」の感覚を身につける

注目する動きと数学的意図
●主題的内容:多変数の気づき
●取り上げる【動き】:「増える」「減る」「変わる」
●数学的体験内容:「変数」「定数」「依存関係」「『関数の考え』の第一歩」

「関数の考え」は算数の本質!でもそもそも「関数の考え」って何?

日本を代表する数学者、数学史家の小倉金之助は、「関数の考え」をすべての根本的な原理とし、「関数の考えは算数の本質、そのものである」と言っているほど。

文部科学省は、今までこの連載で取り上げてきた「数」「量」「図形」などの数量関係のすべてに「関数の考え」が隠れているといいます。「関数の考え」は、いろんな学習のなかに関わっているのです。

y=f(x)を教えるのは、中学校1年生ですが、小学校では「関数の考え」を教えます。でも実は「関数の考え」は何かを理解している小学校の先生も少ないかもしれません。

小学校で学ぶ「関数の考え」とは何か?

では「関数の考え」とは何でしょうか。

まず、何か変化しているものを見つけ、それが何によって決定づけられているのか、そして変化のルールを見つけることです。

数学用語でいうと、変数(y)を見つけ、それと依存するもう一つの変数(x)を見つけて、その間にある依存関係の決まり(f)を表現する、一連の流れのことなのです。

実は、普段の生活にもとても密着しているので、「関数の考え」は抽象的すぎて難しい、生活に関係無いなんて思っている人が大人にも多いのは本当にもったいないことですよ。

世の中すべてy=f(x)で動いている?

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kdshutterman / Shutterstock.com

例えば、日食がいつ起きるか、正確にわかるのはなぜでしょうか?「関数の考え」で導き出せるからです。

土器が発掘された時、いつの時代のものかも「関数の考え」によって計算できます。

フィットネスクラブやジムも「関数の考え」の塊です。何かを減らしたいなら、何をすればいいか。つまり「食べすぎたら体重が増える」「運動したら体重が減る」というのも、みんな「関数の考え」ですよ。

世の中すべて、y=f(x)でわかる、動いているといってもいいかもしれません。物事を理解するためにみんなfやxを探しているのです。

まだわかっていないことでも、「関数の考え」で導き出せそうなことはたくさんあります。例えば、いつどれくらいの規模の地震がどこで起きるかを決める「関数の考え」は何か、計算している人が世界中にたくさんいるのです。

変数や変量を見て、依存関係を見つけ、その決まりに気付いて、未来を予想・想像する。それができるのが「関数の考え」の素晴らしさです。

では、3〜6歳頃の未就学児の頃には、どういうステップでこの「関数の考え」をなぞって行けばいいか、具体的にみていきましょう。

STEP1:動いているものを見よう:変化(変数、変量)に気付く

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電車や車などの乗り物、あるいは人など、何でも良いのですが、動いているものを見た時、子どもは何に注目して、どう言い表すでしょうか?

「増えているね」「減ってきたね」「時間が経ったね」「早いね」「遅いなあ…」など。これが、量が変化していることに着目し、「変量」に気付くことなのです。

川が流れている、風で葉っぱが動いている、何かの実や葉が落ちてくるなどの動きに注目するのもいいですね。

雨が降った時は、いつもと違う、変わった動きを発見できる絶好の機会です。川の流れもいつもより速くなるし、水たまりができて大きくなっていく、窓を伝わる雫など、普段と違う動きがあちこちで見られます。

STEP2:動かないものを自分で動かしてみよう

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子どもは、赤ちゃんの頃から、動くものをじっと観察して、自分も同じように動かしてみるということを繰り返していますよね。

最初は投げたり落としたりしていた積み木やブロックも、電車に見立てて動かしてみるなどの行為が見られるでしょう。

いろんなコップを用意して、水を注ぎ入れていく遊びも発見がたくさんあります。時間が経つと水がだんだん増えてくる様子に「急に底が上がってきたよ」なんて表現をしたり、コップによって水が溜まる速度が違うことに気づいたり。動かしてみた変化に注意してみましょう。(「だんだん」がキーワードです。)

STEP1とSTEP2の違いは、自分が関わるかどうかです。

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動きの変化(変数、変量)に気付くことの意味

子どもが「早くなった」「増えてきた!」と言う時には、主語が不在のことが多いです。そうしたら「何が?」と聞いてみましょう。

コップに水を注いでいる場合なら、表面的な主語は「水」です。でも実は、高さ、広さ、重さなど、様々な量も増えたり、多くなったりして変化していて、それにも気付かせたいのです。

そもそも日本語は主語があいまい。さらに子どもは主語のボキャブラリーが豊富ではないので、言葉の教育にもなります。まず子どもが考えてから、助けを出すといいですね。

STEP3:頭の中で動かしてみよう

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実際には動かせないものを頭の中で想像して動かしてみましょう。

物理の世界ではマッハの「思考実験」という言葉が知られています。

例えば、地面を1m掘ってボールを落としたらどうなる?と想像し、じゃあ50m掘ったら?地球の裏側まで掘ったらそのままボールは落ちていく?などと考えてみることです。

「飛行機に乗ったらどうなるか」「パパが歳をとったらどうなるか?」などもそうですね。「走る新幹線のなかでボール投げたらどうなるか」など、いかにも子どもが思いつきそうなアイディアでしょうか。

これは変化の予想をたてる訓練につながります。

まず頭の中で何かを動かしてみてから「ママ、こんな実験したい!」なんて言いだしてくれたら最高ですよね。

変化の主語を求めると変数がみえてくる

このSTEP1から3まではそれぞれを順番に何度も繰り返す、往復運動になっています。
そして、この3STEPのそれぞれに、また4段階の発見があります。この一連の発見の連続自体が「関数の考え」なのです。

「関数の考え」がわかる4段階

①変化する事象を見つける
②主語でいくつかの変数を見つける
③いくつかの変数の中に2つの変数の依存関係を見る
④依存関係の決まりを見つける

まず変化する物事に注目し、変化を表す言葉を見つけます。
それから「何が?」と、変化の主語を考えます。
すると、いろんな量が同時に変化している「変数」の存在に気付けます。
そして、「世の中が多変数でできている」ということが体感できるのです。

「関数の考え」における依存関係とは

この「依存関係」という数学用語は中学校で学習しますが、小学校では「変われば変わる」として教えます。未就学児なら「○○すれば○○になる」でしょうか。

例えば「コップに水を注ぐスピードを上げれば、満杯になるのが早くなる」のは変数同士の関わりです。

ここで「ママ、さっきより、水がいっぱいになるのが早かった!」と言った時「さっきって何?」と問えば、「時間が経つと増える」ということに気づけるかもしれません。これが、依存関係の決まりを見つける、ということです。

ここで、見つけた変数同士の関係がわかればさらに望ましいです。

コップにいれた水の高さが高くなると、その水を注ぐのに使ったコップの水の量は減ることに注目してみましょう。「何かが増えれば何かが減る」という依存関係の決まりに気付くでしょうね。

ボールを転がしてみよう

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では、STEP2の「自分で何かを動かしてみる」という行為からこの4段階をやってみましょう。

片方を斜めに持ち上げた細長い板の上からボールを転がすとします。

①変化する事象を見つける:遠くにいくとボールが小さくなっている。落ちるにつれてだんだん早くなっている。
②主語でいくつかの変数を見つける:小さくなっているのはボール。板の角度をあげると転がる角度は早くなる。
③いくつかの変数の中に2つの変数の依存関係を見る:ボールと板
④依存関係の決まりを見つける:板の角度を上げれば早く転がる

小学校で学習する「関数の考え」の具体的内容

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「関数の考え」の一部である、「変わり方調べ」は、小学校4年生から教えていましたが、平成20年の学習指導要領で、1年生から「かわればかわる」として教えるように変更されています。

小学校1年生で、まず夏頃に覚えるのが「10のお相手さん」です。何と何で10になるか「1,9」「2,8」「4,6」「5,5」という10の補数を覚えて、すぐ言えるように徹底的に訓練します。これを覚えておかないと、繰り上がりのある足し算や引き算、筆算がうまくいかないからです。

その訓練をするうち、「こっちの数が増えるとこっちが減るね」って1年生でもわかるのです。ここで「かわればかわる」に気づくのが「関数の考え」の一歩なんですよ。

学習指導要領は、平成32年にまた大きく変わりますが、ますます「関数の考え」が重視されていくのは間違いないと思います。だから、未就学児のうちから、この根本を生活の中で理解していけると理想的です。

最後に

「関数の考え」には未来を予想して先が見えてくる問題解決の力がある、と知ると、とても魅力的に感じられませんか?

次回は、いよいよ最終回。第8回は、「わからない」ことが「見えてくる」わけという「理由」の気づきです。「関数の考え」の特性には「概念を作る」もあります。幸せって何?はやいって何?楽しいって何なんだろう……そんな問題発見能力の育て方から、「関数の考え」の基礎作りまでたっぷりお届けします。

(取材・文/志田実恵)

連載「6歳までに身につける数学的思考力のつけ方」の一覧はこちら

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