2018年09月25日 公開

国民の半数が1年に1冊も読まない国で子どもに読書をさせるには

日本人の読書離れが叫ばれてから久しいですが、さらに輪をかけて読書をしないメキシコ人。国民の半分が本を1年に1冊も読まないとか!? 読書習慣があまりない国で、子どもに本を読ませるためにはどうしたらいいのでしょうか。メキシコの現状をお伝えしつつ、対策もご紹介します。

日本人の読書離れが叫ばれてから久しいですが、さらに輪をかけて読書をしないメキシコ人。国民の半分が本を1年に1冊も読まないとか!? 読書習慣があまりない国で、子どもに本を読ませるためにはどうしたらいいのでしょうか。メキシコの現状をお伝えしつつ、対策もご紹介します。

メキシコ人の1年間の読書量はどのくらい?

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GuillermoGphoto / Shutterstock.com
現在、日本人はどのくらい本を読んでいるのでしょうか。文化庁が行った、「国語に関する世論調査(平成25年度)」の結果では、1カ月に1冊も本を読まない人は47.5%に上ったものの、1〜2冊が34.5%、3〜4冊が18%、5〜6冊が10.9%、7冊以上読むと答えた方も3.6%います。

また、全国学校図書館協議会が2017年11月に発表した調査では、小学4~6年生の1カ月の平均読書冊数は11.1冊(2017年5月の1カ月間)で、30年前の1987年の7.4冊から比較すると約1.5倍に。小中学生においては、読書離れどころか、むしろ子どもは読書をするようになっています。

メキシコはどうかというと、なんと年間の平均読書量は3.8冊(2015年)。日本よりはるかに少ない数字です。また、2018年の発表では1年に1冊以上本を読んだのは、国民の45%のみ。2015年は50%だったことから、読書離れがさらに進んでいることが警告されています。

平成 25 年度「国語に関する世論調査」の結果の概要 -文化庁
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/h25_chosa_kekka.pdf
全国学校図書館協議会の「第63回学校読書調査」結果 
http://www.j-sla.or.jp/material/research/63.html
※メキシコ国家統計地理情報局(INEGI)の調査(2015年)を伝える新聞記事
http://www.eluniversal.com.mx/articulo/cultura/letras/2016/04/16/mexico-lee-38-libros-al-ano-indica-encuesta-de-inegi

※メキシコ国家統計地理情報局(INEGI)の調査(2018年)を伝える新聞記事。
http://www.eluniversal.com.mx/cultura/letras/en-mexico-hay-menos-lectores-inegi

本の値段と読書習慣の関係性は?

書籍 本棚 ライブラリ · Pixabayの無料写真 (112033)

メキシコ人が読書をしない理由として、「本の値段が高いから」という意見があります。

例えば、子どもの読み聞かせ用の20ページにも満たない薄い絵本は30ペソ程度(約173円)からありますが、デパートで売っている童話集ともなると、安くても200ペソ(約1,156円)をくだりません。2018年時点で最低賃金が88.36ペソ/日(日給約510円)ということを考えると、本を買うお金があるならば、食べ物を買わなくてはならない、そういう層が存在するのは事実です。

とはいえ、メキシコの公立学校には、毎年新年度に国から一定数の本の寄付も行われています。それは経済的に本の購入が困難な層にも読書の機会を与えることを目的としていますので、「高くて買えない」だけが読書を習慣づけられない理由、とはいえなさそうです。

(※日本円については、2018年9月11日時点のレート、1ペソ=約5.78円にて換算したもの)

速読>理解力重視の教育法

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そこで、教職について40年弱、現在では教職員組合にて教科書の作成に向けたアドバイスも行っている、夫の叔母に話を聞きました。

叔母いわく、メキシコの国語教育が内容の理解より、速読を重視してきた弊害があるそう。メキシコ人の読書傾向についての記事には「(読書量のアンケートに対して)読書をした、と答えた人のうち、1/4が内容の半分もしくはそれ以下しか理解できていなかった」というデータも掲載されていました。

内容を理解する力に乏しければ、楽しみもわからず、読書をする習慣がつかないのは当然でしょう。

親の読み聞かせが唯一の方法?

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「そんな国で子どもに読書習慣をつけさせるにはどうしたらいい?」という質問には、やはり「親であるあなたが、一緒に読むことが必要」という答え。絵本を読みながら先に自分が寝落ちることがたびたび、という筆者は「それができれば苦労はしない……」と少々戸惑ってしまいました。

そんな筆者に叔母は、「1冊の本を一度に読み切ることが大事なのではない」と話します。例えば、読むのは1、2ページだけでも十分。その一部分の中で「この登場人物は寂しい顔してるわね。どうしてかしら?」などの質問をしたり、子どもが何を感じたかを尋ねることが必要だといいます。

文字を書ける年齢に達したら、本の中から好きな部分を書きだして「お気に入りのフレーズ集」を作るのも一案だそう。読書の魅力を知るためには、数をこなして文字を追うのではなく、言葉や文章に興味を持たせ、そこから理解と感情の発展をさせることが必要なのです。

その点においては、なにも「本」を読むだけに限らない、といいます。読書の習慣づけの言葉の楽しさを知るには、街に出て、外で見た看板や宣伝文句を使うという手もあり。それであれば、気負うことなくはじめられますね。

みんなで読めば楽しさ倍増!のイベントも活用

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メキシコシティにあるヴァスコンセロス図書館
Nic Crilly-Hargrave / Shutterstock.com
一方で、筆者と同じようなフルタイムワーカーのお母さんが多い幼稚園のママ友たちに「どうやって子どもたちに読書の習慣をつけさせるか」と聞いたところ、「イベントを利用する」という声が多く聞かれました。

読書の習慣が浸透していないメキシコではありますが、意外にも(?)メキシコシティには、イギリスの新聞『ガーディアン』が主催する「世界で最も美しい本屋」のランキングで8位に選ばれた「El Pendulo」という本屋があり、また「空中図書館」などとも呼ばれ、SF的な独特な雰囲気が世界中から注目される「ヴァスコンセロス図書館」があります。こちらは建築家アルベルト・カラチデザインで、トリップアドバイザーで「死ぬまでに行ってみたい図書館 15」に選出されるなど、さまざまなメディアでもよく取り上げられています。

このような本屋や図書館はもちろん、その他子ども向けの図書施設などでは、週末や長期休暇中に子どもから青少年向けの「読書会」や「朗読会」が行われています。

photo by author (113803)

via photo by author
また1981年から続く「国際青少年ブックフェア(Feria Internacional del Libro Infantil y Juvenil)」では、本の販売だけでなく、オープンエアの公園で朗読、読み聞かせなどのイベントが行われています。

過去に筆者がインタビューをした、舞踏家で紙芝居演者の横尾咲子さんもこのイベントの常連で、毎年メキシコの子どもたち向けに紙芝居の上演を行っています。

このようなイベントを利用することで子どもたちも目先が変わり、いつも以上に本を楽しめる効果がある、とママ友たちはいいます。

個人的な経験を踏まえて

母と娘 母 娘 · Pixabayの無料写真 (112036)

幼少のころは毎晩読み聞かせをしてもらい、山のように本を与えてもらってきた筆者ではありますが、小学校時代は読書も作文も苦痛でした。

今考えると、お手本通りの内容が期待される読書感想文システムがあり、また数をどれだけ読んだかが重要視されていた読書リストがあったために、だんだんと読書から遠ざかってしまったような気がしています。

その後、高等科時代の恩師に出会ったことで、言葉の面白さを知り、遅れを取り戻すかのように、母が持っていた本をむさぼるように読んだことを覚えています。

もちろん、子どもが読書に興味を持ちやすい環境を親が用意してあげることは大事です。が、それは数をこなすことで整うのではなく、言葉の持つおもしろさや奥深さをいかに伝えられるかにかかっているのだな、ということが個人的な経験や夫の叔母の言葉からもわかります。

メキシコに比べると日本では本も手に入りやすく、子どもが楽しめそうなイベントもたくさん開催されています。これを機に、親子で読書習慣を身につけてみませんか。

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この記事のライター