2019年09月26日 公開

2020年大学受験改革で英語が話せる次世代は本当に育つのか?

文部科学省は世界に通用する英語力を持つ人材の育成を目標に掲げ、2020年度の大学受験から民間の英語試験を導入すると発表しました。これは「話す・書く」も含めた総合的な英語力を評価することが目的です。果たして本当に、子どもたちの英語力アップにつながるのでしょうか?※2019年11月1日、文部科学省による大学入学共通テストへの英語民間試験活用延期が発表されました(2019年11月6日追記)

文部科学省は世界に通用する英語力を持つ人材の育成を目標に掲げ、2020年度の大学受験から民間の英語試験を導入すると発表しました。これは「話す・書く」も含めた総合的な英語力を評価することが目的です。果たして本当に、子どもたちの英語力アップにつながるのでしょうか?※2019年11月1日、文部科学省による大学入学共通テストへの英語民間試験活用延期が発表されました(2019年11月6日追記)

受験勉強をしたのに英語が話せない大人たち

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この記事を読んでいる大人のみなさんは、中学校から英語を学び、高校・大学受験勉強では難しい英文法や英単語をたくさん覚えてきたことでしょう。しかしながら、今「自信をもって英語が話せる」という方は、少ないのではないでしょうか?

では、なぜ、あれほど一生懸命英語を勉強してきたのに、私たちは英語が話せないのでしょうか。その一因は、「受験英語が、文法や単語、英文和訳など、筆記試験に偏っているせいだ」ともいわれます。

そのため、文部科学省は2020年度の大学入試改革に伴い、英語ではリーディング、リスニングの大学入学共通テストに加え、「民間の英語試験」を活用するとしています。民間の英語試験では、「読む・書く・聞く・話す」の4技能がまんべんなくテストされるため、「総合的な英語でのコミュニケーション能力」を測れる、との期待があるのでしょう。

しかし、これは本当に「英語が話せる人材を育成する」ための解決策となるでしょうか?受験は、英語力を身につけるために役に立つのでしょうか?

英語が話せない状態で6年前にオーストラリアへ家族移住し、英語環境で英語を学びながら生活している筆者の考えを紹介します。

※2019年11月1日、文部科学省による大学入学共通テストへの英語民間試験活用延期が発表されました。当初は2020年度から導入予定でしたが、2024年からの予定に変更されています(2019年11月6日追記)

「英語が話せる」ってどういうこと?

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私たちが「英語が話せる」と考えるとき、おそらく「よどみなく、ナチュラルな英語が話せること」だとイメージするのではないでしょうか?そしてそのような「理想的な」英語が話せないから、「英語ができない」と感じるのではないでしょうか。

しかし筆者自身、オーストラリアに住んでみて感じたことは、「英語には、『できる』と『できない』の間に、無限のステップがある」ということです。

こちらのような英語環境では、どんなに下手で不完全でも、「自分が今使える最大限の英語を使う」ことが求められます。「下手だから話さない」より、「下手だけど話す」方が何倍もコミュニケーションを助けます。

そして英語の勉強とは、自分の「下手だけど話す」レベルを少しずつ上げていく取り組みに他なりません。そのなかで、表現できること、理解できることが増えていき、より高度なコミュニケーションができるようになります。

英語が話せるようになるために必要なことは?

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そのためには、「単語や文法、言い方を覚える」「それを自分で使ってみる」、この2つの繰り返しが必要です。日本の学校で英語を学ぶ場合、「覚える」ことには力を入れますが、覚えたことを「使う」練習は、あまり行われないのではないでしょうか。

実際に筆者は、単語や文法は知っているのに、いざ会話する場面ではパッと出てこなかったり、間違った文法で話してしまったりすることが、今でもよくあります。「知っている」だけでは英語は話せない、「話す練習」が必要なんだなぁ、と強く思います。

英語を学ぶ上で一番大切なことは、「間違わないこと」ではなく「間違っていいから、どんどん使って練習していくこと」だと、筆者は痛感しています。また、英語表現や文法などの「知識を覚えること」と、それを「自分で自由に使ってみること」、その両方を取り組むことが同じだけ大切だと感じます。

大学受験制度を変えれば、子どもたちの英語力は上がる?

Writing Pen Man - Free photo on Pixabay (144525)

受験英語は「合格」することが目的です。けれど、英語の学習そのものは、知識を増やしながら繰り返し練習する、という積み重ねの中の継続的な成長です。受験勉強の英語と英語力を身につけることは、リンクする部分はありますが、根本の目的が違うと筆者は考えます。

今回の大学入試改革で取り入れられる予定の民間試験のうち、たとえばIELTSというテストは、オーストラリアである種のビザを取るときや、国外からこちらの大学に入学する際の英語力判定に使われています。

ビザや入学の申し込みをするためには、決められた水準以上の成績でなければなりません。IELTSは、英語環境で特定の職業に就いたり、専門的な学問を学ぶことが可能な英語力を持っているかを判定する目安として用いられます。

このような民間試験は、「これまで獲得してきた英語力を測る」ためのもので、大切なのは、結果に相応する「英語力を養ってきた」という事実です。受験ですべての生徒にこの試験を課せば、全体として生徒の英語力が上がる、というものではありません。

本来は、子どもたちが国が目標とする英語力を身につけられるよう、適切な教育システムになっていることの方が重要ではないでしょうか。子どもたちに「総合的な英語力をつけさせたい」から、「総合力を測る受験システムに変える」というのは、本末転倒であるように思います。

大学受験は、今までの学びの達成を実感できる機会にー

School Learn Students - Free photo on Pixabay (144528)

via pixabay.com

よく漠然と「英語ができる人材」といわれますが、英語が話せない大人たちが、自分のイメージする「英語が話せる」を子どもたちに押し付け、理想を求めないよう、気をつけなければならない……と筆者は感じます。

受験や民間試験が、子どもたちを追い込むためではなく、これまでの学びの達成を実感できる機会として、活用されるよう望みます。

英語は、これまで学んだ知識を使って人とアイデアを交換するためのツールの一つです。子どもたちの英語教育に関わる大人は、子どもの英語の間違いをなくすことより、間違いを恐れずに自分なりに英語を使うことを、子どもたちに後押ししてあげたいですね。

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この記事のライター