2019年02月12日 公開

キレない心を育てる教育プログラム「セカンドステップ」の効果は

セカンドステップは、子どもを加害者にしないために開発されたアメリカ発の教育プログラム。攻撃的な衝動行動を和らげて、コミュニケーション力や問題解決力等のソーシャルスキルを身につけるのが目的です。日本でも実施している園や学校も増加中。受講した親子の声も聞きました。

セカンドステップは、子どもを加害者にしないために開発されたアメリカ発の教育プログラム。攻撃的な衝動行動を和らげて、コミュニケーション力や問題解決力等のソーシャルスキルを身につけるのが目的です。日本でも実施している園や学校も増加中。受講した親子の声も聞きました。

セカンドステップとは

 (130688)

Tatyana Dzemileva / Shutterstock.com

アメリカ発!ソーシャルスキルを学ぶ教育プログラム

「セカンドステップ」プログラムは、1980年代にアメリカで作成された、子どものための教育プログラムです。低年齢層の暴力やいじめの増加が、問題視されたことで生まれました。

まず、子どもたちが「暴力被害に遭わない方法」を学ぶのをファーストステップとし、さらに子ども達自身が「他人に暴力をふるわない方法」の学習をセカンドステップとしています。この、「子どもが加害者にならないためのプログラム」が特に評判になりました。

セカンドステップは、別名をソーシャル・エモーショナル・ラーニング ”Social-Emotional Learning(SEL)"。子どもたちが、自分の中の暴力的な衝動をコントロールするだけでなく、心の知能指数ともいわれる「EQ」を育て、 集団生活に必要なコミュニケーション能力を培う効果があります。

つまり、このプログラムを受けることで、社会生活の中での自己調整力など、有用なソーシャルスキルを身につけられるのです。

開発したのは、アメリカ・ワシントン州シアトルに本部があるNPO法人「こどものための委員会」”Committee for Children ”(1978 年設立)。2001年には、全米で『もっとも効果的なプログラム』として、米国教育省より最優秀賞を受賞しているそうです。

世界に広がるセカンドステップ

現在(2018年)では、アメリカでは1万8,000校で約1,200万人の子どもが受け、また、世界70カ国以上の教育機関で実施・導入されているそうです。 日本でも、300以上の保育園や学校、児童養護施設などで実施され、効果が報告されています。発達障害の可能性のある子どもたちに対する早期・継続支援事業の一つとして取り入れている機関もあるようですね。

日本では、2001年設立のNPO法人「日本こどものための委員会」が普及活動を行っており、ぬいぐるみや「気持ちカード」などを含む教材の翻訳版や単行本も販売しています。指導希望者は研修会で研修を受けることができます。以下のWebサイトから詳細を問い合わせられますよ。

セカンドステップの特徴

 (130689)

Tatyana Dzemileva / Shutterstock.com
セカンドステップのプログラムでは、身につけるべき3つの柱があります。

●「ソーシャルコミュニケーション能力」相互理解:お互いに自分の気持ちを伝えること。
●「ファシリテーション能力」問題解決:問題を解決する方法を考えること。
●「アンガーマネジメント」怒りの扱い:怒りを自覚してコントロールすること。

昨今注目されている力ばかりですよね。

さらに、以下の4つの内容を系統的に学ぶのも特徴のひとつです。
1:学びのスキル
2:共感
3:情動の扱い
4:問題の解決

さらに、ロールプレイを交えた実践型の学習方法も特徴的です。ぬいぐるみやカード、音楽などの教材を使い、それぞれ気持ちを想像し、自由に発言し、話し合いながら、問題解決の糸口を探っていきます。

未就学児からはじめるセカンドステップ

 (130690)

Natewimon Nantiwat / Shutterstock.com
東京・府中市の「第2府中保育園」では、5、6歳の子どもたちが毎週1回レッスンを受けているそう。NHKのニュース番組でその様子が報道されていたので紹介します。

使われていたのは1枚の写真。遊んでいるうちに、誰かとぶつかって転んだ女の子が写し出されています。誰にでも起こり得る、身近な場面の写真です。「この女の子はどんな気持ちかな?」と先生が問いかけると「嫌な気持ち」「寂しい気持ち」など子どもたちが口々に発表。

そこから、自分に怒りが芽生えた時の3つの対処方法を先生が説明し、皆でそれを復唱していました。

●「落ち着いて」と自分に言い聞かせること。
● 3回深呼吸をすること。
●ゆっくり5まで数えること。

「怒ってはいけない」とするのではなく、感情をコントロールして問題を解決する方へ導くのが狙いだそうです。これは、おうちでも取り入れられそうですね。

ちなみに、セカンドステップを家庭で取り入れたい人は、全国各地で開催されている「親子塾」で学ぶこともできます。

参考:セカンドステップを実施している日本の園・学校一覧
http://www.cfc-j.org/secondstep/expanse

日本での導入実績と効果

 (130691)

fckncg / Shutterstock.com
東京都・品川区では平成18年度からモデル校3校で「セカンドステップ」を実施。その後、「叩く、蹴る」などの反社会行動が、実施校と非実施校で比較すると、実施校に減少が見られたという結果を発表しています。現在は品川区のほぼ全ての区立小学校と義務教育学校(小中一貫教育)、計37校で実施。1、2年生の「市民科」内に組み込まれています。

「市民科」は、品川区が道徳や総合的な学習を統合し、再構築した独自の教科です。平成18年度から実施されており、オリジナルの教科書があります。

1年生では、市民科内の年間10時間の授業内で、相互に理解を図る方法を学びます。まず自分の気持ちを表現し、相手の気持ちに共感すること。そこから、互いに理解し合い、思いやりのある関係を形成することが目的とされています。

2年生(同様に10時間)では、困難な状況であっても、前向きに取り組み、問題を解決する力を養います。円滑な関係を構築するための、問題解決方法を学びます。また、「アンガーマネジメント」ともいえる、怒りの扱い方についても学習します。自ら、怒りの感情を自覚し、自分でコントロールする力を養い、建設的に解決する関係を構築することが目的です。

品川区の小学校で「セカンドステップ」を体験した生徒や親の反応は…

実は筆者も東京都品川区在住。周囲のパパママで、「セカンドステップ」の授業を見聞きしたことがあるか、内容についてどう感じたかなどの意見も聞いてみました。

●授業参観で見学しました。授業の構成や内容はとても素晴らしくて、今はこんなことも学校で学ぶんだなと感動しました。映像を見て、「この子、どんな気持ちかわかる?」と先生が問いかけると、「口がにっこりしていても、目が笑ってないから心細いのかも」などと、子どもたちが理解を深めていく様子が面白かったです。「1人でいても楽しいと思う人もいるし、なかなか嫌だって言えない子もいる」という発言も印象的でした。ただ、教材は、アメリカの小学校や子どもたちの映像がそのまま使われていて、シチュエーションや感情表現が全部副音声だった点は、違和感がありました。普段の生活とかけ離れていると、日本の子どもたちにはちょっとピンとこないのではという懸念を感じました。続けていたら効果が出てくるのでしょうか。「セカンドステップ」という言葉については一度も説明を受けていませんし、学校だよりでも見た記憶ありません。意図がわかっていたらもっと理解も深まるかな、と思います。(小学校1年生の親)

●”セカンドステップ”という言葉は認知していませんでしたが、学校側がいろいろと配慮してくれている印象は受けていました。一部ですが、子ども達の暴力沙汰が問題になることもあります。家庭によって考え方が違うので、先生も対応に苦慮しているようです。そんな中、息子は、授業でいじめについての考え方や、人の気持ちについて、かなり学んできたようです。子ども達も、それぞれで考えて、それを実生活に生かせているという理解でした。(小学校2年生の親)

全体的に、「セカンドステップ」という言葉を聞いた・読んだ事がある、認識しているという方はちょっと少ない印象を受けました。「言葉は知っているけど効果については特に考えたことがない」「道徳の授業だと思っていた」という方もいました。「そんな素晴らしい取り組みをしているなら、内容や効果をもっと具体的に知りたい」という声も聞きました。

子ども達にとっては、半分遊びや運動をしながら自由に参加できる授業なので、”お勉強”感が少なくて楽しんでいるという話も伺いました。

公開授業も行われているようなので、見学してみたいです。今後さらに良い形で認知度が上がっていくと良いですね。

最後に

 (130692)

Natewimon Nantiwat / Shutterstock.com
暴力を振るったり、教室のものを壊したり、自分の感情や衝動をコントロールできずに問題を起こす「キレる子ども」の増加が、日本でも話題になっています。文部科学省が毎年発表する「児童生徒の問題行動・不登校調査」。2018年10月に発表された、平成29年度の調査では、小・中・高等学校における、暴力行為の発生件数は63,325件(前年度59,444件)と、増加の一途。特に小学校で暴力行為が増えていて、低年齢化が加速している様子が伺えます。

そんな中、私たちの子どもが、加害者にも被害者にもならないために、できることを少しでも学びたい方も多いのではないでしょうか。幼少期の仲間はずれやちょっとした意地悪も軽視せず、子どもたち同士でトラブルを解決するための方法を探るためのヒントが得られそうです。家庭内でもできることはいろいろありますし、親子関係においても、多くの事が学べそうですね。

また、コミュニケーションやコラボレーション力は、クリエイティブ・シンキング、クリティカル・シンキングと合わせてCQと呼ばれ、21世紀に必要な力だといわれています。これから伸ばすべき、非認知能力でもありますね。その観点からも、注目したいプログラムではないでしょうか。

参考:平成 29 年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果のPDF 
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/10/__icsFiles/afieldfile/2018/10/25/1410392_1.pdf

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

志田実恵
志田実恵

エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらメキシコ・バスクの料理本の編集のほか、食、世界の子育てなどをテーマにwebを中心に活動中です。