2017年06月26日 公開

異文化異言語を尊重する国民性!スウェーデンの母国語教育とは?

人口の5人に1人が外国にルーツを持つ多民族国家スウェーデン。家庭では両親の母国語で会話し、学校などではスウェーデン語を使うという子どもたちが多くいます。そんな子どもたちが学校で親の母国語を学べるスウェーデンの教育についてご紹介します。

人口の5人に1人が外国にルーツを持つ多民族国家スウェーデン。家庭では両親の母国語で会話し、学校などではスウェーデン語を使うという子どもたちが多くいます。そんな子どもたちが学校で親の母国語を学べるスウェーデンの教育についてご紹介します。

異文化異言語を尊重して社会になじむ母国語教育

保育園のクラス入り口ドアにある多言語表記

保育園のクラス入り口ドアにある多言語表記

上からスウェーデン語、タイ語、ロシア語、ポルトガル語、英語、ペルシャ語、ハンガリー語、日本語。クラスの子どもや父兄の母国語が連なる。
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スウェーデンの人口970万人のうち、国外生まれは200万人。国籍も200にのぼるといわれており、近年、移民受け入れが急増したことで、スウェーデンでは多国籍化が進んでいます。

そんな多国籍社会のスウェーデンでは、異文化にバックグラウンドを持つ子どもたちが早く社会に溶け込めるようにと、ある取り組みが行われています。それが「母国語教育」です。ここでいう「母国語」とはアラビア語など異文化の子どもたちが家庭で話す言語のこと。

一見、いち早く社会や学校になじませるという目的と母国語教育は、相反するように思われますが、スウェーデン教育庁の調査によると、母国語教育を受けている生徒の方が、受講していない生徒より学校でのパフォーマンスが良いと報告されています。

独自のアプローチで異文化を社会に取り込む、スウェーデンの母国語教育をご紹介します。

スウェーデンの学校で、週一回は日本語の授業!?

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無償で受けられるスウェーデンの母国語教育は、「モーデスモール(modersmål 訳:母国語)」、または「ヘムスプローク(hemspråk 訳:家庭言語)」と呼ばれ、家庭でスウェーデン語以外の言語を話している、あるいは両親またはいずれかがスウェーデン語以外の言語を話す家庭の子女が対象です。

対象年齢や授業時間数は自治体によって異なりますが、通常は週に1〜3時間、保育園から小中学校、希望すれば高等学校での受講も可能です。

初等教育(小中学生)では、およそ18万人の生徒が母国語教育を受けており、約150種類の言語で授業を実施。現在のところ、アラビア語が最も多く、続いてボスニア語、クロアチア語、セルビア語となっています。希望者が地域に5人集まると催行する自治体が多く、日本語の先生もほとんどの地域で派遣されています。

言語や文化の橋渡しとしての母国語

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母国語クラスの授業内容は自治体に委ねられていますが、スウェーデン教育庁は母校語教育の大まかなガイドラインを成長過程ごとに設けています。

例えば、幼児教育(保育園等)では、週1~2日で保育園にやってくる母国語の先生が歌、お絵かき、ごっこ遊び、工作、ゲーム、読みきかせなどを行い、スウェーデン語同様、母国語の基礎作りを目標としています。

ときには異文化交流や理解を図るために、クラス全員でその国の歌遊びやゲームをしながら、スウェーデンのバックグラウンドを持つ子どもたちにその国の文化を披露。同時に母国語教育を受けている子どものアイデンティティを育みます。

幼児教育のうちから母国語のスキルを高める機会があった子どもは、就学後も良い成績を修めているという研究データもあり、理由としてその時期に母国語とスウェーデン語の橋渡しが確立されているからだと結論づけています。

初等教育から中等教育にかけての母国語クラスでは、バイリンガルのアイデンティティや2言語間のスキルを向上させるほか、生徒のバイリンガルとしての自尊心を強化できるような授業が行われます。通常、学校では課外授業として放課後にそのクラスを設けています。

ガイドラインからも分かるように、母国語教育といっても単に言語の指導だけでなく、文化の学び場としても機能しています。そのため、母国語の教師たちは研修会を開き、スウェーデンと母国の文化や生活習慣について、双方に理解させる手段などを定期的に話し合い検討しています。

母国語が強化されると学校でも好成績に

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スウェーデン教育庁が2010年に行った調査によると、母国語教育の対象となる生徒の中で、母国語教育を受けている生徒の方が、受けていない生徒より学校での成績が優秀であることが明らかになりました。

その結果をふまえ、母国語は子どものアイデンティティや自尊心において、とても重要な役割を果たし、第二言語やほかの教科を学ぶための学習能力の基礎となると認識されました。

と同時に、移住者が持ち込んだ言語は国の財産であり、多数がマルチリンガルになることは社会的にも経済的にも有益であると、母国語教育を有意義なものとして位置づけています。

異文化異言語への柔軟性と人権の尊重から生まれた

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1953年のユネスコ国際人権規約で「すべての子どもは国語で初等教育を受ける権利がある」と宣言し、1960年代に大量の移民が入ってきたスウェーデン。いち早く学校での母国語教育が導入されました。

また、2009年に導入された言語法で、意外にもスウェーデン語がスウェーデンの公用語であることがはじめて法的に明言されたほか、すべての人に母国語を使用する権利があり、特定の言語の使用を禁止することはできないと記されています。

この法律が施行される以前まで、スウェーデン語が日常的に公的機関で使用されていたにもかかわらず、公用語として保護されていなかったのは驚きです。

しかし、大半のスウェーデン人が英語が得意なように、外国語や異文化への柔軟な姿勢と個人の権利や平等を重んじるスウェーデンの国民性は、異文化のルーツに誇りを持つことや他国の文化や言語を尊重することを比較的たやすくしているように映ります。

他国からの移住者の子どもたちが、スウェーデン社会に結合するために始まった母国語教育ですが、スウェーデン人の子どもたちの中にも、例えばペルシャ語の歌遊びが大好きだったり、日本語の先生がいつも持ってくる絵本がお気に入りだったり。「なんで私には同様のクラスがないの?」と母国語クラスに憧れを抱く子もいるほど、今では身近な存在となっています。

さまざまな国から来た母国語教育の先生が毎週保育園や学校にやってくることによって、母国語教育以外の子どもたちにも異文化の風が吹いていることは間違いありません。

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この記事のライター