『おさるのジョージ』と『ひとまねこざる』といえば、子どもたちはもちろん、パパママ世代からも人気の高いシリーズ絵本です。この2作品には絵柄・文体・表記などに違いが見られます。『おさるのジョージ』と『ひとまねこざる』の違いを比べながら、2作品の魅力を探ってみましょう。
どちらも主人公はおさるの「ジョージ」
彼と暮らしているのは、黄色い帽子の優しいおじさんです。ジョージにとって友だちであり親である「きいろいぼうしのおじさん」は、ジョージをとてもかわいがっています。
先に出版されたのは『ひとまねこざる』
『ひとまねこざる』シリーズ第1作目『ひとまねこざるときいろいぼうし』が発行されたのは、1941年。作者はハンス・アウグスト・レイとマーガレット・レイの夫妻で、絵本の作者名はH.A.レイとなっています。
『おさるのジョージ』は『ひとまねこざる』の作者の死後、この作品を原案に1998年より、ヴァイパー・インタラクティヴによって新シリーズとして制作されました。つまり旧シリーズが『ひとまねこざる』で、新シリーズが『おさるのジョージ』となります。原案は同じですが、時代背景・作者が違うため、趣の違う作品になっているのです。
旧シリーズ『ひとまねこざる』について
著者:H.A.レイ(文・絵) 光吉 夏弥(訳)
出版社:岩波書店
日本での初発表は、1954年でした。原著では第2作目となる『ひとまねこざる』から発行され、光吉夏弥訳で縦書きの文章となっています。その後、福本友美子・渡辺茂男などにより訳され、書式も横書きに変更されました。
主人公の子ザルの表記は「じょーじ」とひらがなとなっています。50ページ以上の作品となり、幼児向けの絵本としてはやや長め。ただほとんどがひらがな表記で、わずかな漢字にもふりがながあるので、未就学児~小学校低学年の一人読みも可能です。
現代では、あまり見ない表現方法も出てきて新鮮です。たとえば入院したジョージが、薬品のにおいを嗅いで気絶するシーンでは「わや ほしが ちらちらする!」というセリフが登場。恐らくパスタ(スパゲッティ)と思われる麺が、「うどん」と訳されているシーンもあります。
ジョージとおじさんの出会いについて
おじさんによって、ジョージがアフリカのジャングルからアメリカの都会に連れて行かれるくだりを、「植民地支配を肯定的に描いている」と批判する意見もあります。一方で「アフリカで自由に暮らしていた子ザルが、都会で起こすドタバタ劇を描くため」の設定であり、植民地主義肯定・政治的風刺のメッセージ性は、薄いとの声も少なくありません。
『おさるのジョージ』について
著者:M.レイ(原作)H.A.レイ(原作) 福本 友美子(訳)
出版社:岩波書店
日本では、1999年より『おさるのジョージ どうぶつえんへいく』『おさるのジョージ ききゅうにのる』『おさるのジョージ チョコレートこうじょうへいく』などの作品が同時発行されています。福本友美子・渡辺茂男などにより訳され、書式も横書きに変更となりました。
主人公の子ザルの表記も「ジョージ」とカタカナに。ページ数も20数ページとコンパクトになり、より低年齢の子どもも楽しめるようになりました。乳幼児の読み聞かせ・未就学児の一人読みにも、ちょうど良い長さです。
作者のH.A.レイについて
第一次世界大戦時、ドイツの兵士として戦ったハンスは、その後大学へ進み外国語・医学などを学びます。ドイツの経済不況から逃れるため、1924年ブラジルに渡り、親族の会社に就職。
一方、マーガレットは美術学校を卒業後、カメラマンとなります。しかし1933年よりナチスドイツによるユダヤ人弾圧がはじまり、ハンス同様ブラジルへ渡りました。
1935年に再会したふたりは結婚し、新婚旅行先のフランス・パリに移住します。ハンスは絵本作家として執筆活動をし、『きりんのセシリーと9ひきのさるたち』を発表。作中に登場する元気な子ザルが、ジョージの原案となりました。
やがてふたりは、ジョージを主人公に物語を制作しますが、第二次世界大戦がはじまってしまいます。1940年6月には、ついにフランスにナチスドイツ軍が侵攻。
『ひとまねこざる』シリーズの原稿を抱えたふたりは、命からがらアメリカ・ニューヨークへ渡ります。身の安全が保障された渡米の翌年1941年に、『Curious George』を発表しました。
読む順番に注意『ひとまねこざる』シリーズ
原著の発行順どおりに『ひとまねこざる』シリーズを読む場合、以下の順序となります。
1.『ひとまねこざるときいろいぼうし』 原著1941年発行・日本語訳1966年発行
2.『ひとまねこざる』 原著1947年発行・日本語訳1954年発行
3.『ろけっとこざる』 原著1947年発行・日本語訳1959年発行
4.『じてんしゃにのるひとまねこざる』 原著1952年発行・日本語訳1963年発行
5.『たこをあげるひとまねこざる』 原著1958年発行・日本語訳1966年発行
6.『ひとまねこざるびょういんへいく』 原著1966年発行・日本語訳1968年発行
特に第1作目『ひとまねこざるときいろいぼうし』と第2作目『ひとまねこざる』は、ジョージがニューヨークに来た理由・おじさんの仕事などが描かれた作品。順番どおりに読むよう、気をつけて見てください。
ランダムに読んでもOKな『おさるのジョージ』
『おさるのジョージ おもちゃやさんへいく』
『おさるのジョージ ピザをつくる』
『おさるのジョージきょうりゅうはっけん』など
ジョージの日常生活・バカンス・イベントが、ユーモラスに温かく描かれています。単発エピソードなので、表紙・タイトルを見て好きなものから読みはじめて構いません。順不同で楽しめます。
世代を超えて愛されるジョージ
シリーズを通して感じられるのは、「いたずらをしても許せてしまうジョージの愛らしさ」と「周りの人間の温かさ」ではないでしょうか。どの作品をとっても、『ひとまねこざる』作者であり、『おさるのジョージ』の原案者であるH.A.レイ夫妻の穏やかな人柄が伝わってくるようです。