公立の小・中学校に学力格差はあるのでしょうか。格差の要因は環境?指導?文部科学省が実施した平成29年度の「全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)」を元に、どんな学校に学力の高い子どもが多いのか、学校間格差を分析したレポートから共通する特徴を紹介します。
学力に学校間格差がある!?
平成29年度の調査から、児童生徒(小6、中3)の家庭の世帯年収、保護者の最終学歴のばらつきや地域特性、生徒の学力に関する状況をまとめた報告書の内容をご紹介します。
まず、調査の指標として世帯収入・保護者の最終学歴を「社会経済的背景」として得点化しています。そのうえで、学校間の生徒の社会的経済背景のばらつきを調べています。
その結果、大都市では、社会経済的背景の高い生徒が多い学校は学力が高く、低い生徒が多い学校の学力が低いという傾向がはっきりと出ました。
学力の学校間格差と都市規模の関係
中3では、小6と同様の傾向がありながらも、都市規模による差は小さいという結果が出ました。
都市規模による学力の学校間格差の違いの要因
「教育効果の高い学校」の特徴の地域差
ただし、教育効果の高い学校の特徴は都市規模による差がある、という結果が出ました。ある地域で効果があった方法でも、地域が変われば必ずしも有効ではないことを示しています。
例えば、大都市の「教育効果の高い学校」の特徴として「将来就きたい仕事や夢について考えさせる指導をした」がありましたが、中核市やその他の市・町村ではそのような特徴は見られませんでした。
どの地域でも共通する「教育効果の高い学校」の特徴は以下の3つです。
・さまざまな考えを引き出したり、思考を深めたりするような発問や指導をしている
・自分で調べたことや考えたことを分かりやすく文章に書かせる指導をしている
・児童生徒の態度が良い(私語が少なく落ち着いている、礼儀正しいなど)
学力の高い学校の風土とは?
1.熱意をもって勉強している
2.授業中の私語が少なく落ち着いている
3.礼儀正しい
4.学級やグループでの話合いなどの活動で、自分の考えを相手にしっかりと伝えることができている
5.学級やグループでの話合いなどの活動で、相手の考えを最後まで聞くことができている
その結果、学校風土得点が高い学校ほど学力が高いということが分かりました。また、児童生徒の社会経済的背景の高さと学校風土得点の高さには、ある程度関連性が見られました。
高い成果を上げている学校に共通すること
そして、この高い成果を上げている小学校5校、中学校5校の学校の特徴や取り組みについて、学校への訪問調査と管轄市教育委員会のインタビュー調査をもとに掘り下げて分析しています。
結果、導き出された、「高い成果を上げている学校」の共通特徴は次の8点です。
1.家庭学習指導
2.管理職のリーダーシップと実践的な教員研修
年に1、2回は市や県の教育委員会から指導主事を招き全校で研究授業をするほか、日常的に教師がお互いの授業を見せ合い、学び合うシステムができている学校が多く見られました。中学校では教科を超えて授業を見合うことが定着していました。
また、質の高い授業をするベテランが、若い教師に授業を直接指導するOJT 研修も行われていました。
3.小中連携教育
また、保育園や幼稚園との連携も特徴的に見られました。目指す生徒像を共有することも多く、「次世代を担う」「ふるさとの未来を支えよう」など生涯学習的な視点を目標にしている学校も多く見られました。
4.言語に関する学習規律の徹底
5.学力調査の活用
また、一人一人の子どもの学習状況に着目したり、前年の課題を教師で共有し授業改善に生かしたりする姿勢がありました。
さらに、分析や対策の時代は終わったとして、未来の市民として小中学生が地域社会で活躍できる素地こそを学力ととらえる校長やリーダー教師も多くいました。
6.基礎基本の定着の重視と少人数指導
「言われたことはきちんとやる」といった家庭や地域の文化、「地域の期待も高く、悪くなれない」学校の雰囲気が定着し、継続している傾向があります。
その上で「成就感を持たせる、褒めて伸ばす」「学ぶ意味や意欲を教え、生徒の主体性を大事にする」など子どものやる気や主体性を育む教師の関わりが顕著です。また「居心地の良い学校」「学校に居場所がある」というような子どもが安心して学べる学級経営が行われています。
7.補充学習
8.地域と学校の結びつき
荒れた学校が改善!その改革方法は……
選出されたA中学校は、以前は市の校長会や多くの住民も認める「荒れた学校」で、地域や保護者と教師の信頼関係が欠如し、学級崩壊が見られていました。
低迷期から改善期
●教室にエアコンを配置したことで、生徒が授業中に教室内にいるようになったこと。
●教師の加配により最終的には5人以上教師が増えたこと。
●NPOなどによる学校支援活動や、スクールカウンセラーの派遣があったこと。
また、前校長が最初に叱り方の指針を明確にしました。学習指導以前に、子どもが学校と教員に持っている不信感を払しょくすることが先決だと考えたからです。
その指針は、生徒には一人の人格として共感的に接する、生徒の名前は「さん・君」を付けて呼ぶ、叱る以上に褒める、けれども不正を見逃さず、悪いことは許さない、安易な妥協をしないでしっかり叱る、悪い行為を叱るのであって人格は否定しない、というものです。
改善期における主な改革
1.特別支援教育の視点を普通学級に応用した授業のユニバーサルデザイン化
2.目の前の子どもの実態に応じた授業づくり、数学・英語における少人数学習の実施
3.生徒自ら計画し実行する家庭学習の支援
4.教科を越えた校内研修
5.小中連携の取り組み
入学前に小・中学校の学校環境や風土を知ろう
幼稚園教育要領や小学校の学習指導要領も改訂され、幼稚園・保育園から小学校の連携もより強化されています。
学校風土をよく知るには、学校設備の他にも、在校生や教師の方々、学校がある地域の様子などにも目を向けることが大事ですね。
保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究(成果報告書)その2