早期教育とはどんなものでしょうか。幼児教育や知育、英才教育(ギフテッド、才能教育)との共通点と違いから、効果や批判や弊害まで、メリット・デメリットを紹介します。知育系、芸術系、運動系などの種類や重視すべきポイントもまとめました。
早期教育とは
早期教育とは、主に未就学(小学校入学前)に行われる教育の総称です。乳幼児期から、優秀児を育てるという目的の元、知的好奇心が旺盛で、頭が柔らかいうちに教育を開始し、脳を活性化させるのが大事だと推奨する教材や教室がたくさんあります。脳の発達には「臨界期」があり、その時期を過ぎると、脳の神経細胞は可塑性を失うとされていることを根拠とするものも多いようです。
どちらかというと本人の意向より、教育熱心な大人の都合が優先されることや、平均的な発達に対して早すぎるアプローチの仕方が問題点として指摘される意見が目立つようです。
幼児教育・知育・英才教育・ギフテッド教育との違い
知育も知能を高め、知識を豊かにするための教育の総称であり、幼少期の知的教育を意味するものの、必ずしも早期教育と同じ意味で扱われる言葉ではありません。
また、英才教育は、ある種の才能が優れている子どもの能力を伸ばすために行う特別な教育を指します。才能教育、秀才教育、エリート教育というような呼び方もあります。ギルフォード博士の『知能構造論』を根拠とするものも多いようです。
一方でギフテッド教育は、「ギフテッド」「タレンテッド」など才能が認定された子どもへの特別支援活動や、教育手法です。
英才教育もギフテッド教育も比較的早期から開始されるなど、重複する部分も多いので、早期教育と同じものだと混同されることもあるようです。
ちなみに、日本の義務教育では、早期教育や英才教育を目的として飛び級を実施することは認められていません。
モンテッソーリ教育やシュタイナー教育などのオルタナティブ教育も、早期から取り組むことで、早期教育、また幼稚園や保育園でも行われることから幼児教育、また多くの著名人を排出していることから英才教育だと捉えられることもありますが、そうではないようです。
日本の早期教育ブーム
その後1970年代に巻き起こった「第一次早期教育ブーム」はソニー創始者の井深大氏の著書『幼稚園では遅すぎる』が火付け役です。人間の脳は3歳までに脳細胞の80%が形成されるので、できるだけ早く、0歳から脳に刺激を与えれば才能豊かな子どもに育つという主張でした。「育脳」「脳育」などの言葉も流行し、国内外から注目され、大きな論争を巻き起こしました。いわゆる「3歳児神話」にもつながりますが、20年後に井深氏は、当時の主張を振り返り、知的教育は言葉がわかるようになってからで良いなどと、一部を否定しています。
続く、「第二次早期教育ブーム」は1990年代。少子化が進んだことで、教育産業が幼児の教育対象年齢を下げ、早期教育が過熱化するようになりました。エスカレータ式の私立幼稚園や小学校の人気の高まりで受験者が増え、幼児教室が急増。当時の一部の行き過ぎた早期教育は社会問題化し、メディアでの議論も活発化しました。
早期教育のメリット・デメリット
メリット
子どもを取り巻く環境の変化もあり「孤育て」「ワンオペ育児」などの状況で子育てに悩む親も多い現代。早期教育をきっかけとして、子どもへの働きかけをする時間が増える、あるいは充実し、それで親子関係が良好になる場合は大きなメリットになりそうです。
さらに母子分離の習い事や幼児教室の場合、その間が親の良いリフレッシュ時間になる、または先生や親同士の交流で育児の相談相手を持てるという観点でもメリットがありそうです。
ちなみに、障害児教育の世界では、発達障害や知的障害の早期発見と早期支援開始を含む早期教育は望ましいことであり、乳児期から発達支援を行うことの効果とメリットは以前から指摘されています。
デメリット
特に知識の先取りをして、暗記を促すような、インプット重視の詰め込み教育やパターン化された教育は、子どもの自主性を奪うため、その子が常に刺激に対して受け身になる危険性や思考力が育たない危険性が指摘されています。
早期教育の種類
お腹にいる時から音楽や語りかけをする「胎教」や乳児向けの「超早期教育」(胎児期〜1歳)。読み書きや算数などを教材や教室で体系的に教える「先取り学習」。右脳を鍛えるフラッシュカードやIQを向上させるという「知能教育」、英語、ピアノ、ダンス、そろばんなどのお稽古ごとも、スイミングや体操などのスポーツや運動関連もあります。
ワークブックやドリルのほか、絵本、生活場面においての知的教育も早期教育の一種です。幼稚園や保育園で行われているものの中にも早期教育と呼ばれるものがある場合もあるでしょう。
英語(外国語)
ピアノやバイオリン(音楽)
また、東京藝術大学(芸大)では、世界的状況から音楽の早期教育の有効性は明らかであるとし、将来音楽家を目指す全国の子ども達(小学校4年生〜)を対象に、幼少期から継続的・段階的に指導を行う「早期教育プロジェクト」を2014年から実施。優れた才能を開花させ、国際舞台で活躍する音楽家育成を目指しています。子どもたちの可能性を発見して最大限伸ばし、夢の実現をサポートする目的もあるそうです。
先取り学習(文字や数の学習)
運動(スポーツ・ダンス)
右脳左脳教育
そのほか
早期教育のその後と効果
子どもの能力や才能は環境要因よりも、遺伝子の力に左右されるという説もあります。
ただ、数は少ないものの、「ペリー・プレスクール・プロジェクト(ペリー幼稚園プログラム)」と「アベセダリアン・プロジェクト」のように、30年以上追跡調査が行われ、一定の評価を掲げている研究もあります。
ノーベル経済学賞を受賞者のジェームズ・ ヘックマン教授による就学前教育の投資効果から考察した 幼児教育の意義についての発表も、早期教育を一部肯定するものです。また、就学前教育の質が、子どもの学力にも大きく影響を与えるという結果であるのも間違いありません。
早期教育の弊害は……
英才教育の内容を含む早期教育は、目標達成のために、幼児期に過剰な圧力で負担を与え、長時間にわたって厳しい指導を続けることがあるかもしれません。それがかえって、学習意欲を阻害することもあるかもしれませんし、ストレスで子どもがノイローゼになったり、心身に何らかの身体の不調を訴えたりするような環境は、「教育虐待」にもつながります。高い能力があるからと、トップや進級を目指し、特定の技能を習得する訓練のため、睡眠や適切な食事が十分にとれない状態は明らかに行き過ぎの状態です。
また、一見本人が努力し、好んでやっているように見えても、親の高い期待に答えて「良い子」でい続けているだけかもしれません。自我の形成が妨げられ、思春期以降に問題を引き起こす事例もあります。
もちろん、子ども時代に、自然と親しむ体験を減らし、友達とのびのび自由に遊ぶ時間、創意工夫し、創造性を育む機会を奪うようでは本末転倒です。
早期教育をするなら、重要なこと
以下のような点に配慮すると良いでしょう。
●子どもの成長にとってふさわしいかどうか。
●短い時間で取り組め、苦痛がないか。
●子ども自身が楽しんでいて、充実しているか、能動性を発揮しているか。
●詰め込みや暗記のみではなく、創意工夫の余地があるか。
●子どもの気持ちをよく汲み取り、反応をよく観察する。
●子どもの主体性や自主性を大事にする。
大切なことは・・・・・・
その一方で、子どもの将来や幸せを心から願っていて、ごく普通の子育てを目指しながら、その中でできるだけ質の高い選択をしているだけのつもりなのに、「警告!早期教育が子どもをダメにしている」などと全ての選択を否定されるのも辛いものです。
早期教育を行うこと自体に問題があるわけではなく、全ての早期教育が全ての子どもに悪い影響を及ぼすわけではありません。ただし、科学的根拠が無く、むしろ害になる可能性のある内容もあるので、冷静な判断と覚悟が必要です。
早期教育をどの程度、どのくらいやるのがいいか、量と時間の目安は、個人差もあるのでなかなか付けにくいですが、子どもの様子をよく観察して様子を見て調整するのが良さそうです。
少しでも早く、追いつく、秀でる、という気持ちではなく、親子で楽しく取り組めるようにできるとと良いですね。
『早期教育を考える』無藤隆(日本放送出版協会・1998年)
『早期教育をまじめに考える本』小宮山博仁(新評論・1999年)
『警告!早期教育が危ない 臨床現場からの報告』高良聖(日本評論社・1996年)
『赤ちゃん学カフェ vol.3 』日本赤ちゃん学会(ひとなる書房・2010年)
『その「英語」が子どもをダメにする 間違いだらけの早期教育』榎本博明(青春出版社・2017年)
『小児科のぼくが伝えたい 最高の子育て』高橋孝雄(マガジンハウス、2018年)