ドイツ生まれ、オランダ育ち。いま世界から注目を浴びている教育法が「イエナプラン」です。画一的なマニュアル教育を排し、個性と自立を重んじるこの新しい教育法から、子どもを幸せにする教育のヒントを探し出してみましょう。
イエナプラン教育とは、個性と自立を育む教育法
イエナプラン(Jena-Plan)は、ドイツにあるイエナ大学の教育学者ペーター・ペーターゼンが、同大学の実験校で始めた教育法です。
1926年、新教育フェローシップ(NEF)の第4回国際会議において、ペーターゼンが実験校の取り組みを発表した際、「イエナプラン教育」という名称がつけられました。
いわゆる伝統的な教育とは異なる「オルタナティブ教育」の1つです。
子どもの個性と自立を育むため、イエナプラン教育には教育理念ともいえる、人間や社会、学校に対する20の原則があります。
「20の原則」という理念を重視し、現場の状況に合わせて教員が創意工夫することを強く勧めるオープンモデルの教育であることから、イエナプラン教育は「メソッドというよりはコンセプト」ともいわれます。
ドイツで生まれた教育法ですが、現在もっとも普及・発展しているのはオランダです。
オランダでは憲法で「教育の自由」を定めており、各学校が独自に授業内容や手法を工夫して良いことになっています。
そのため、画一的な授業を行わないというイエナプランの考え方が広まりやすい土壌があったといえるでしょう。
イエナプラン教育とモンテッソーリ教育との比較
モンテッソーリ教育もまた、オルタナティブ教育としてよく知られています。イエナプラン教育とモンテッソーリ教育の共通点や相違点は、どのようなものなのでしょうか。
まず共通点としては、子どもが自分自身でものごとを判断する気持ちを尊重し、大人は子どものサポートをするというスタンスを大切にしている点が挙げられます。
またどちらの教育も、異なる年齢の子どもたちを集めて1つのクラスにするという特色があります。
次に違いをみてみましょう。モンテッソーリ教育は、教具と呼ばれる専用の道具を利用する点に特徴があります。子どもが手に取りたくなるような教具を活用することで、日常生活の練習をしたり、数の概念を学んだりします。
一方でイエナプラン教育では、「仕事」という個別・共同学習も行いますが、「対話」や「遊び」、「催し」といった、コミュニケーションを必要とする活動を重視しながら、学習目標の達成を目指します。
イエナプラン教育の方法論・特徴とは?
教室はリビングルーム!生徒主体の教室づくり
イエナプラン教育では、教室をリビングルームととらえます。
生徒が心地よく自発的に学習できるよう、年度初めにグループリーダー(教員)と子どもたちが話し合いをして、自分たちで教室の環境をデザインします。
教室には、作業用テーブル、検索用のパソコン、読書用の大きなソファーを置くことも。
子どもが進んで学びたくなる環境作りを行い、自主性や自立心を養います。
異年齢のクラス構成で社会性を養う
日本では同学年で学級編成を行うのが基本ですが、イエナプラン教育では、異なる年齢の子どもたちを集めてグループを作ります。
6~9歳児、9~12歳児のように3学年をミックスした「根幹(ファミリー)グループ」で活動するのが一般的です。
グループの中で、年少・年中・年長の3つの立場を経験しながら過ごすことで、年齢差による立場の違いを体感したり、お互いに助け合う精神を養ったりすることを目的としています。
個性の異なる者が同じ環境で生活することで、柔軟な社会性を育成することを目指すのです。
また共同学習の時間が頻繁に設けられており、上級生が下級生を助けながら課題を解決することで互助の精神が養われます。
受身の授業ではなく、自主性重視のカリキュラム
イエナプラン教育では、教科別の時間割はありません。
対話・遊び・仕事・催しという4種の活動を循環的に行い、目標レベルに到達することを目指します。
「対話」とは、車座(サークル)になって話し合いをすることです。グループリーダー(教員)は、ファシリテーターとしての役割を果たします。
「遊び」では、子どもたちが音楽に合わせて自由に体を動かしたり、学習や教育に役立つゲーム遊びをしたりします。
「仕事」は、課題を意識してそれを達成するための活動です。個別に行う自立学習と、共同学習の2種類があります。
「催し」では、学校行事や誕生会、ミニ学芸会などを行い、喜怒哀楽を共有して共同体としての意識を育てることを目的としています。
4つのどの活動においても、子どもの自主性が最大限尊重されるように配慮がなされています。
総合学習の「ワールドオリエンテーション」
イエナプラン教育では、理科や社会といった教科の区別がなく、「ワールドオリエンテーション」と呼ばれる総合学習を行います。
「労働」や「環境」、「技術」や「コミュニケーション」といったテーマを取り上げ、調べ学習をしたり、プレゼンテーションをしたりして、知見を広げます。
イエナプラン教育の導入に問題点も!
教育の専門家からも高い評価を受けているイエナプラン教育ですが、日本ではメジャーとはいえません。
日本の学校教育での採用例が少ない理由として、教員の負担が大きいことが挙げられます。
イエナプラン教育における教員の主な仕事は、子どもたち1人ひとりの学習進度を注意深く観察し、そのレベルにふさわしい自主的な学びの環境を用意することです。
学習指導要領のようなマニュアルがあるわけではないため、イエナプラン教育について理解を深めた教員を、十分な人数確保することが必要になります。
そのため、1対多数の集団授業を原則としている日本の教育現場への導入は、なかなか難しいという現実があるようです。
イエナプラン教育がわかるおすすめの本
世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書
著者:おおたとしまさ
出版社:大和書房
オランダの個別教育はなぜ成功したのか イエナプラン教育に学ぶ
タイトル:オランダの個別教育はなぜ成功したのか イエナプラン教育に学ぶ
著者 :リヒテルズ・直子
出版社 :平凡社
※現在、電子版のみ販売中
日本国内でのイエナプラン教育の取り組みを知りたい方には、こちらの『オランダの個別教育はなぜ成功したのか イエナプラン教育に学ぶ 』が最適です。「日本イエナプラン教育協会」のHPも参考になります。
イエナプラン教育が受けられる日本の小学校
日本においても、2019年4月にイエナプランスクールが開校しています。長野県佐久穂町の大日向小学校「しなのイエナプランスクール」です。
「自立する」「共に生きる」「世界に目を向ける」ことの実現を目指して、イエナプラン教育を実践しています。
バイキング形式の学校給食(学校ごはん)は、基本的に学校の登校日であれば誰でも食べることができ、地域社会や保護者との交流も大切にしています。
また、東京都大島町立つつじ小学校や宮城県石巻市立雄勝小学校では、先生方がイエナプラン教育の研修を受けたり、校内研究としてイエナプラン教育を行ったりと、先進的な取り組みが行われています。
教育とは子どもの社会性を育てること
イエナプラン教育が高い評価を受けているのは、子どもの自立をうながす教育法として優れているからです。
学校教育であれ家庭教育であれ、当面のゴールは子どもが社会で生き抜くための力=社会性を育てること。
イエナプラン教育には、そのためのヒントがたくさん散りばめられているといえるでしょう。