2024年03月25日 公開

子どもの学校・園への支度、どこまで手伝う?家庭でできる工夫とは

登校・登園の支度等、自立に向けて少しずつ親の関与を手放していく過程でどこまで援助し、どこから任せればよいのでしょうか。『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』連載第32回ではその丁度よいさじ加減ををご紹介します。

火加減、湯加減。丁度いい「加減」に行き着くまでには、実際に行動した上での、「熱すぎた」「冷たすぎた」という経験が伴います。子どもへの援助にも「加減」が必要です。特に登校・登園の支度等、自立に向かって少しずつ親の関与を手放していくプロセスでは、知識に頼りすぎることなく、その時々に丁度よい援助を実際に行っていくことが大切。楽しく挑戦と援助を繰り返し、支度の習慣を作っていきましょう。
 それでも、できるだけ早く、自分でできるようになってもらいたい場合には、「できる自分」を意識させるのがおすすめです。「もう○歳なのに」と焦ることなく、終わらせ方、言語化・可視化、先の楽しみを見せる等の工夫を取り入れてみてください。子どもの前向きな気持ちが引き出せます。

子育てに必要な「加減」

「いい加減にして!早くしなさい!」今日もまたこんなスタートを切ってしまった子どもとの一日。自分でさっさと支度をしてくれれば、余裕をもって和やかに登校・登園できるのに、出かけるとなると、決まってグズグズしだす我が子。親が全ての準備を行うことが許されていた「赤ちゃんだった頃」の方が、子育てがラクだったと感じる方も多いのではないでしょうか。

子どもの学校・園への支度を親が手伝うのは、至って簡単なこと。前の日に準備だってしておけます。しかし、それでは子どもが自立せず、いつまでたっても手伝い続けることになってしまいます。「もう年長さんなんだから」「もう小学生なんだから」と思うものの、現実は期待通りにはならず、今日もギリギリまで我慢、後に爆発となってしまいます。

どこまで援助し、どこから任せるのか。難しいのは「加減」です。火加減や湯加減。加減は数値化されるものではなく、なんとなく「このくらいが丁度いい」と判断していくもの。そして、「丁度いい」に至るまでには、「ちょっと熱すぎた」「冷たすぎる」など、触ってみながら修正していく経験もあるわけです。経験やカンを利用して、人はだんだんと加減ができるようになっていくのかもしれません。

子どもへの援助にも、「加減」が必要です。登校・登園の支度のように、徐々に任せる部分を増やしていく際には、特に数値化されない「加減」が求められます。子どもの様子を見ながら「今日は任せてみよう」「ここだけ手伝おう」と加減する。焦りは禁物。最初から上手な加減などできるはずはありません。やりすぎ、少なすぎを経験しながら、なんとなく丁度いい援助ができるようになっていくということです。

援助を「できた」につなげる工夫

それでも、子どもにはできるだけ早く、自分で支度ができるようになってもらいたいですよね。ここでは、親の援助を子どもの成長につなげるための3つの工夫を紹介しましょう。援助をしつつも、子どもが「自分でできた」と思える経験を増やしていくことができれば、子どもの成長は加速します。

最後は「できた」で終わらせる

「終わりよければ全てよし」ということわざがあります。終わりの印象は、人の記憶に大きく作用するそうです。本の読後感にも大きく影響を与えているのは、終わりの部分。ハッピーエンドのえほんが多いのも、うなづけます。

「支度はママがやって」と言っている子どもに、今日こそは自分でさせたいと願うも、かんしゃくを起こされてグタグタになってしまったという場面。子育ては親の思う通りにはいきません。しかし、この場面を「自分にはできない」で終わらせてほしくないのです。最後は「自分で支度ができた」で終わらせてあげましょう。

まずは、「そうか、今日は気分が乗らないんだ」と気持ちの代弁。わかってもらうことで子どもは落ち着きます。そして「じゃあ、帽子だけ自分でかぶろう」と、できそうなことだけやらせます。帽子を頭に乗せてしまってもOK。扉を開く時には、「よし、支度できたね!」で終わらせます。子どもの前向きな気持ちを引き出すには、最後に「できた」という経験を入れ込むことが重要です。

できたことは言語化・可視化

支度は習慣。習慣は積み重ね。同じことを毎日行っていれば、そのうち「当たり前」の習慣ができてきます。問題は、どのようにして同じことを毎日行うかということ。そこには楽しさや、できている実感が必要です。

言語化・可視化が役立ちます。習慣ができるまでは、やっていることには「やっているね」、できたことには「できたね」と、「見ているよ」というメッセージを伝えてあげましょう。大きな励みになります。支度が自分で出来た日には、シールを貼るのもよいでしょう。どんどん増えていくシールを見て、自分で支度をすることが面白くなっていくかもしれません。「こんなこと当たり前」とせずに、一つひとつの行動に温かい眼差しを向けてあげましょう。

少し先の楽しみをイメージさせる

正しい子育てを追求すれば、確かに「子どもをモノ釣る」という行為はNGとなるのでしょう。しかし、楽しみがあるからこそ頑張る気持ちが湧いてくるのも事実です。

「支度が5分でできたら、登園途中に公園で亀を見れるよ」等、少し先の楽しみをイメージさせると、子どもは楽しく行動できるようになります。ここで注意したいのは、「早く」や「頑張ったら」と、測れないゴールを提示するのではなく、「あの時計が5になるまでに」等、はっきりとわかるゴールを見せること。「頑張ったのに公園に寄れなかった」とならないような配慮が必要です。

気分が乗らないときはそっと援助

子どもだって、気分が乗らない日はあるものです。「これは自分で」と決めていても、甘えてやらなかったり、投げ出してしまったり。そんな時には、そっと援助をしてあげましょう。援助の「加減」には、「今日だけ特別」も必要です。

子どもの状況を察して、さっと動いてあげるもよし。「今日だけお母さんに手伝わせてね」と、こちらから歩みよっていくもよし。「決めたことだから」と気分が乗らない相手に無理強いをしても、あまりよい結果にはなりません。子どもの様子を見つつ、「まあ、今日だけいいか」という柔軟性も、子育てには必要です。

子どものその時々の気持ちを汲み取りながら、ちょっとだけ頑張る経験を楽しく積んでいってくださいね。
■ライタープロフィール
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江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
イヤイヤ期の言葉がけはタイプ別に!江藤コーチの子育てアドバイス①
子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
学力向上ために6歳までにやるべき6つのこと。江藤コーチの子育てアドバイス③

■江藤さんの著書紹介

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/